11月13日に発生したパリ同時多発テロ事件から1カ月。フランスをはじめとする各国政府は、テロ対策を急ピッチで強化している。そのことを当然と受け止める人々も少なくない。しかし政府の権限強化は国民の自由を奪い、暴走すればテロ以上の脅威となりかねない。テロの起源を知れば、それが理解できるだろう。
パリのテロ事件を受けた各国のテロ対策は、どんどんエスカレートしている。事件の舞台となったフランスでは、オランド大統領が非常事態宣言によらなくても強力な治安対策をとれるよう憲法改正に乗り出す方針を示した。事件後に出した現行の非常事態宣言ではすでに、裁判所の捜索令状なしでの家宅捜索、報道規制、人や車の往来の制限、集会開催や夜間外出の禁止、カフェやレストランの閉店――などを命じることができる。
欧米では治安当局が、スマートフォン(スマホ)などによる通信の暗号化技術がテロ組織に悪用されているとして、米アップルと米グーグルに対し、暗号の解読手段を用意するよう改めて要請した。テロの実行犯らは暗号化されていないスマホのショートメールで連絡を取り合っていたにもかかわらず、プライバシーの侵害につながりかねない暗号規制が持ち出されたことで、テロに便乗した規制強化ではないかと議論を呼んでいる。
日本では、共謀罪の新設を求める声が政府・自民党内から出てきた。犯罪を実行せず、準備もしておらず、話し合っただけで処罰の対象にする罪である。戦前、思想の弾圧に使われた治安維持法で、共謀罪に相当する「協議罪」が多用された反省から、戦後日本の刑事法は、ごく一部の例外を除き、犯罪の実行行為があって初めて罰するのを原則としてきた。共謀罪が新設されれば、この原則を根本から崩すことになる。
それでも各国の国民の間には、「テロという非常事態の下では、自由が多少制限されるのはやむを得ない」「政府として当然の対応」といった鷹揚(おうよう)な受け止め方が少なくないようである。国民の安全を守るのは政府の仕事とされているから、多くの人々がそう考えるのも無理はない面はある。
テロの起源
しかし、そのような人たちにぜひ知っておいてもらいたい歴史的事実がある。テロとはそもそも、政府が自国民の権利を脅かすことを指す言葉だったのである。
テロの起源は、18世紀のフランス革命にある。