中国はこのマラッカ海峡を通過せずとも、インド洋や中近東、アフリカに出られる戦略も着々と構築している。友好国のミャンマー内に中国は軍港建設を進めているほか、ミャンマーの天然ガスの油田と中国内を直接つなげるパイプラインも敷設した。民主化を進めるミャンマーは一時に比べて中国と距離を置き始めたものの、今でも国境付近では人民元が流通するほど中国とは経済関係が強い。
日本もインラック政権時代、バンコク西部からミャンマーに通じる道路の開発を支援し、終着点のミャンマーのダウェー港の開発にも力を入れる考えを表明した。このルートは、マラッカ海峡を通過せずに短時間でインド洋に出られるルートだ。ダウェーは映画『戦場にかける橋』の舞台となった地域に近い、戦略上の要衝でもある。ダウェー港は深海港であり、重化学工業の輸出入拠点としては適している。ヤンゴン周辺の他の港は河川港が多く、浚渫(しゅんせつ)が必要なうえ、大型船の入港にも制限がある。
タイとインドはFTA(自由貿易協定)を締結しており、貿易促進のためにも開発が必要なルートであるため、タイ主導で開発が始まり、それを日本が支援する構図だった。しかし、このルートの開発にも最近、中国の影がちらつくようになっている。
戦略面の失敗
東南アジアの経済圏は、日本経済に大きな影響を与える。日本経済にとっては「金城湯池」だ。誤解を恐れずにいえば、かつての「満州」にも匹敵する、日本が多くの権益的ものを有する地域でもある。日本企業の投資も多く、欧米企業に比べても日本企業がさまざまな製品で高いシェアを持つ。
日本企業で最高額の純利益を稼ぐトヨタ自動車の国別利益では、アメリカ経済が回復する数年前まではタイが1位だった。タイのトヨタの工場は国内工場よりも生産性が高く、中近東や豪州など世界の輸出拠点となっている。いすず自動車【編注:「ず」の正式表記は踊り字】もタイ事業が最大の収益源だ。日産自動車や三菱自動車も同様に東南アジア事業を強化している。こうした動きに合わせて、鉄鋼や人材派遣などの関連ビジネスも東南アジアビジネスを強化してきている。
そうした地域における高速鉄道などのインフラ開発で、日本は中国に比べて劣勢になっているのである。その理由は、日本政府が中国に戦略で負けているからである。