12月28日に開催された日韓外相会談において、両国は「慰安婦問題」を決着させることで合意した。日本の主要メディアはそれを大きく取り上げているが、日本の「真の国益」を考えると、「慰安婦問題」よりもっと深刻な課題がある。それは、親日的な国々が多い東南アジアが中国の「侵食」を受けている点だ。象徴的な出来事は、インドネシアの高速鉄道の受注競争で有利と見られていた日本が、最後はあっけなく中国に敗れたことだ。
タイの高速鉄道整備計画でも中国が攻めてきている。中国内の昆明からバンコクまで一気につながる路線を、中国が受注する計画だ。さらに鉄道の軌道も、中国の方式を採用する見込みで、国境で車両を替えなくても一気に中国からタイ国内に車両が入り込むことが可能になる。これだと、兵士や武器を容易にタイ国内へ移動させることが可能になる。中国は安全保障の観点から、インフラ開発の支援を強化している。
タイは親日国の代表的な存在だが、インラック政権が倒れて軍事政権樹立後、急速に中国に接近している。日本は、バンコクとタイ北部のチェンマイを結ぶ路線を受注する計画だが、この路線はLCC(格安航空)との競合があるうえ、チェンマイから先は行き止まりだ。戦略的にあまり重要な路線とはいえない。
さらに中国はバンコクを経由してマレー半島を通過し、マラッカ海峡に通じる高速鉄道の路線も計画している。その際にマレーシアの存在がカギとなる。かつてマレーシアはマハティール首相時代、「ルックイースト」という外交政策の名の下、日本との友好関係を重要視していた。ところが、今のナジブ首相は非常に中国と近い。「第二のイメルダ夫人(フィリピンのマルコス元大統領の妻)」とも呼ばれ、政治に口出しするナジブ首相の妻に中国は接近することで、政権に食い込んだといわれる。マレーシアの地元新聞1面でも、ナジブ首相夫妻と李克強首相夫妻が仲良く写った写真が大きく掲載されている。
エネルギー確保に懸念も
中国はマレーシア国債を大量に購入し、マラッカ港の開発に日本円で1000億円近く投じる計画。さらにマレーシア国内に中国企業がマグロの加工場をつくるが、マレーシアが保持するマグロの漁獲枠を中国に譲ったともいわれている。日本は中近東から原油を運んでくる際に、マレー半島とスマトラ島に挟まれたマラッカ海峡を通過する。エネルギー確保のための要衝でもある。そこに中国の影響力が強まることが何を意味するかは、いわずもがなだ。