若手を育てる制度が整っているサウサンプトン
–興味深い話ですね。今の話を聞いても、クラブの柔軟性を感じます。実際にサウサンプトンはどんな雰囲気でしたか?
高野 私自身、プレミアリーグのほかのクラブを見たり話を聞いたところでは、ギスギスした雰囲気のクラブが多いと感じましたが、サウサンプトンFCの場合は非常にフランクでした。チュンソンも現キャプテンのジョゼ・フォンテやヨス・ホーイフェルトをはじめ、いろいろな選手が気にかけてくれて、ホームパーティーやテレビゲームに誘われたりしていました。麻也(吉田麻也選手)が早い段階でクラブに馴染めて活躍できたのも、そんな雰囲気も少なからず影響があったと思います。それは、私を含め外部から来た指導者に対しても同じでした。
–サウサンプトンのクラブとしての特徴はどのようなものがありますか?
高野 プレミアリーグでも有数の育成型クラブという点でしょうか。アカデミー(下部組織)のレベルや指導の質は、世界でも有数だと思います。ここ何年かだけでもユースアカデミー出身選手の移籍金で、130億円以上の収入を得ています。ただ、もともとプレミアリーグの中で特に育成が優れているというわけではありませんでした。転換期を迎えたのは、クラブに財政危機が訪れ存続が危ぶまれた時です。それまでは、ほかのクラブと同様に、足りない選手は外から買うというスタイルでした。財政難でそれができなくなり、自前の選手を育ててトップチームに定着させるという流れが浸透しました。サウサンプトンFC出身の選手が高額で他クラブに移籍して活躍している背景には、やはり積極的に若手選手を使い続けるので育ちやすいことが挙げられます。
–プレミアリーグはJリーグよりも若手の活躍が多いと感じます。
高野 それは、若手にチャンスを与える機会が多いからだと思います。サウサンプトンFCの場合、トップチームに若手が6~7人いる状態が理想という考え方です。たとえば、現在アーセナルFCでプレーするアレックス・オックスレイド=チェンバレンは、16歳でプロデビューを果たしました。しかし、14歳の時は契約延長を危ぶまれるほど伸び悩んでいましたが、たまたま視察に来ていた上のカテゴリーの監督に引き上げられ、そこで結果を残してブレイクしました。ルーク・ショー、カラム・チャンバースといった選手たちを抜擢した時も、体力的・技術的にシーズン通して使うことを疑問視する声がありましたが、クラブが初志貫徹で使い続けました。その結果、今ではトップレベルでプレーする選手に成長しました。
–イングランドで、指導の面に関して印象に残っていることはありますか?
高野 オフ・ザ・ピッチの指導もしっかり行うことです。イングランドのような世界中にスカウト網を張っているようなリーグでは、多種多様な国籍やパーソナリティを持った選手がいます。そういった中で、プロとしての考え方をしっかり植え付けるための、ピッチ外での指導の綿密さには驚きました。