去年10月、六代目山口組・髙山清司若頭が出所し、山口組分裂問題にさまざまな影響を与えたのは記憶に新しい。その直後の去年12月に刊行された六代目山口組の機関紙である「山口組新報」第20号も“髙山色”が強く、まず巻頭には髙山若頭の写真が掲載されていた。
「さらに、本文には髙山若頭の出所を祝う言葉が綴られていました。そのなかには分裂問題に関する一文もあり、『山口組の若頭が不在といういわば山口組にとっての試練ともいえるなかで、分裂問題によって、それまで見えにくかった箇所も見える機会ともなった』といった趣旨でした。山口組分裂という前代未聞の事態を、逆に組織を見つめ直す良い機会であったと前向きに捉えているように書かれている印象がありました」(裏事情に詳しいジャーナリスト)
そしてこの4月、第21号となる「山口組新報」が直系団体に配布された。同紙を目にした業界関係者によれば、巻頭は山口組の象徴でもある六代目山口組・司忍組長の写真が掲載され、1月に名古屋市内の関係施設で開催された新年会のレポートが記されていたという。
「盛大に執り行われた新年会の様子を伝えることで、当局の厳しい弾圧のなかにあっても、山口組は変わることなく前進しているということを配下の組員たちに伝えることができ、レポートを読んだ組員たちの不安は軽減されたのではないか」(業界関係者)
そうした一方で、権力がヤクザ社会に弾圧を与えることによって生まれる社会の歪みについて警鐘を鳴らす一文もあったようだ。
「不良外国人による犯罪、半グレグループによる特殊詐欺は治安を乱す結果を招いている。そういった社会の荒れた時にこそ、変わらず任侠道を歩み続け前進していくことの重要性が示されていた」(前出の関係者)
つまりは、ヤクザが果たしてきた自警団的な役割を再認識すべきという働きかけであろう。またこの関係者によれば、今回の紙面では分裂問題について言及されることはなかったようだが、権力による弾圧を指摘するこの箇所において、対立する神戸山口組を暗に指しているのではないかとも読みとれる、「落後者の中傷があったとしても、これまでと変わらずに前へと進む」とった趣旨のことが書かれてあったようだ。
そして2面には、法要や行事報告が、3面には新しく直系組長へと昇格を果たした二代目兼一会・植野雄仁会長と三代目杉本組・山田一組長の挨拶文が掲載されるなど、今回も全8ページによって構成されていたという。
「現在、六代目山口組と神戸山口組は特定抗争指定暴力団に指定されており、両組織を取り巻く環境は実に厳しい状態にあるといえます。そうしたなかにあっても従来通りに機関紙を発行し、組織内に強いメッセージを発することには大きな意味があるのではないでしょうか」(ヤクザ事情に詳しい専門家)
ヤクザ社会を取り巻く状況は、六代目山口組に限らず深刻な状況にあるといえる。ヤクザであること自体への厳罰化が進み、組員数も減少の一途を辿っている。だがそうしたなかにあっても、六代目山口組の本拠地のある兵庫県だけは、2019年は前年よりも組員数を増加させているのだ。分裂により一端は組員が大幅に減ることになった六代目山口組だが、そこに復帰や移籍する組員がいたということだろうか。これは、水面下で起きている山口組分裂問題の動きの一端の現れだろう。今回のような機関紙の発行もまた、組織の求心力維持のためには重要な活動なのである。
(文=沖田臥竜/作家)