29歳の時に社会復帰してきた筆者に、なにかと親切にしてくれた人物がいた。塀の中で出会い、先に出所し社会復帰を果たし、筆者になにかと心配りをしてくれたその人物は、兵庫県姫路市に本拠地を置く武闘派組織、武神会の元幹部であった。現在の神戸山口組の中核団体である五代目山健組傘下、二代目武神会となる。
出所後、1日休暇をもらった筆者は、この元幹部のはからいで社会復帰の細々とした手続きを行なっていた。そしてその際、客人をもてなすかのように散髪へと連れて行ってくれたなかのひとりが、先日逮捕された二代目武神会の八軒丈弥容疑者であった。今から15年前のことだった。
去年11月30日、加古川市内で、ナンバープレートが外されていた車が全焼しているのが発見される。その後の捜査の結果、今月に入り、この車を放火したとして建造物等以外放火容疑で二代目武神会の八軒容疑者ら8人が逮捕されることになった。ただ、この放火事件の本当の狙いはそこではなかったのだ。
真の狙いは、放火された車の所有者A氏の行方であった。姫路市に住むA氏は放火事件以前から行方不明になっており、なんらかの事件に巻き込まれたのではないかと当局は見ていたのだ。
捜査のきっかけは、車が放火された3日前に遡るという。「A氏が山中に埋められている」などといった匿名による通報が、11月27日あたりに複数件寄せられていたというのだ。
「この事件では、逮捕された8人以外にも、事件になんらかの形で関わっていた少年らがいると見られているようです。彼らからも、事件に関する供述が取れたのではないかと思われます」(事件記者)
そうした供述などに基づいて捜査がなされると、今月11日、京都府の山中で、行方不明になっていたA氏が遺体で発見されたのである。
「発見されたA氏も、傷害致死や強盗といった逮捕歴があったいわく付きの人物。八軒容疑者らと金銭をめぐるトラブルがあったという話だ。放火容疑で逮捕されたなかには、十代の少年らも複数含まれている。暴力団組織の人間が絡むこうした事件はそのまま闇に葬られることも少なくないが、今回は口が重くない少年たちも関与していたので、A氏がトラブルに巻き込まれたことがすぐに広まっていったのではないか」(地元関係者)
男性宅からは、金銭にまつわるトラブルを抱えていたことをほのめかすメモなどが残っていたといわれている。
そして24日、八軒容疑者らはA氏を殺害したとして再逮捕された。当局は、八軒容疑者らの認否を明らかにしていないが、A氏は容疑者らに刃物のようなもので殺害されたと見ている。
15年前、筆者を客人としてもてなしてくれた際の八軒容疑者の姿は、ヤクザ渡世を邁進しているのが一目でわかるほど輝いていた。その後、八軒容疑者は逮捕され、筆者もすぐにまた社会不在を余儀なくされてしまい、出所後は、前述した元幹部が消息を絶っていたので、八軒容疑者とも会えていない。
それが15年の時を経て、久しぶりにその名前を耳にしたわけである。彼は、このような凄惨な事件にかかわるような人物には思えなかった。強化される一方の規制によって、ヤクザが生きづらくなった社会が、八軒容疑者を変えてしまったのか。当時のさまざまな記憶が走馬灯のように甦ってきたのであった。
(文=沖田臥竜/作家)