2014年、「女性が活躍できる社会を目指す」という指針が政府によって定められ、その後も社会のなかで女性に働きやすい社会について議論されることが多くなった。
かねてから、男女雇用機会均等法などによって法整備はされてきていたものの、一度産前産後休業や育児休業をとってしまうと、それまでと同じ環境で働くことができなくなってしまうことが多い。そのような状態を、法改正や指針などで改善しようという機運が高まっている。
しかし、現実にはいまだ女性が働きやすい環境を整備できていない企業も多い。最近も、妊娠の事実を会社に伝えた2カ月後に解雇を通告されたとして、解雇の無効を求める訴訟があった。その裁判では3月22日、東京地方裁判所が女性に対する解雇を無効とし、解雇期間中の未払い賃金の支払いを命じている。
この訴訟のように近年、マタニティハラスメント、いわゆるマタハラが問題となっている。マタハラとは、会社で働く女性が、妊娠、出産、育児という出来事をきっかけとして、社内で嫌がらせを受けるなど労働環境が悪化したり、解雇、異動、減給、降格などの不利益な処分を受けたりすることをさす。
上記訴訟を受けた企業は、「協調性がないこと」「注意指導をしても改善の余地がないこと」「社員としての適格性がないこと」という妊娠以外の理由によって女性を解雇したと主張している。
この事案について、労働問題に詳しい浅野英之弁護士は、次のように話す。
「男女雇用機会均等法には、妊娠中の解雇は原則として無効であるという規定があり、妊娠を理由とした解雇でないことを会社側が積極的に証明した場合のみ、例外的に解雇が認められるにすぎません。妊娠中の女性を適法に解雇することは、どんな理由であれ非常に困難なのです」
仮に、妊娠中の女性社員を妊娠以外の理由で解雇できると広く認めてしまえば、表向きは能力不足や協調性の欠如といったもっともらしい理由をつけて、簡単に解雇することができてしまう。そして、そんな解雇を許せば、いつまでたっても女性が働きやすい環境をつくる社会全体の雰囲気は醸成されない。その結果、どんなに国が指針などをまとめようとも、その実効性は得られず国全体にとって損失になる。