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江川紹子の「事件ウオッチ」第62回

誰の、なんのための裁判なのか――【オウム・高橋克也被告裁判】で噴出した裁判員裁判への異議

文=江川紹子/ジャーナリスト

 假谷さんの代理人で、被害者参加弁護士として公判に参加してきた伊藤芳朗弁護士も、高橋被告の裁判に被害者が納得できなかったのは「制度に原因があると思う」と言う。

「私も裁判員裁判の弁護人をやったことがありますが、公判前整理手続で決められた争点以外は質問もしてはいけないなど、裁判所にものすごくコントロールされる。せっかく被害者参加制度があっても、参加人もものすごくコントロールされる。被告人に質問できるといっても、情状に関することだけで事実に関する質問は許されない。でも、被害者は事実を知りたいんです。そのうえ、質問事項を事前に提出させられ、『あれは聞いちゃいけない、これは聞いちゃいけない』と言われる。(被告人のためでも、被害者のためでもなく)裁判員のための裁判になってしまっている。被告人に、思うことをストレートに言わせる場面もなく、ものすごく食い足りない裁判だった」

 高橋被告の一審では、林郁夫受刑囚が証人出廷した際、高橋被告へのメッセージを文書にして持参し、それを読み上げようとしたが許されなかった。高橋シズヱさんは、そういう一審の状況を思い起こしては、「うるおいのない、心がない裁判だったな、と思う」と振り返った。

 代理人として地下鉄サリン事件の被害者を支えてきた中村裕二弁護士はこう語る。

「裁判員制度ができた意義は大きいが、高橋被告の場合、証人も制限され本人尋問も短かった。オウム事件のように人間の心の機微が中心的な論点になる事件では、証人や被告人自身が時間的制限をせずに話す場面を設けるべきではないか。その点で、裁判員裁判でやっていい事件と、そうでない事件を分けて対応するなど改善を望みたい」

 しかし、こうした裁判のあり方をめぐる意見は、翌日の新聞ではまったく報じられなかった。裁判員制度に対して批判めいた言動は、マスメディアにとってタブーなのだろうか。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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