シニアの転職が、働き方の改革を先導する
日本経済の成長の鍵は、雇用の流動化にある。生産性の悪い衰退産業から、生産性の良い成長産業に労働力をすばやく移転して、良い新陳代謝を続けなければ、国全体の成長が滞る。
その雇用の流動性を先導するのは、50代以上のシニアだと考える。シニアの転職の活発化を雇用者側と労働者側が協力、合意しながら進め、社会全体で人的資源の最適配分を図るべきである。私事ながら、54歳の筆者も今年、30年勤めた会社を円満に退職し、前職の会社とは関係のない会社に転職した。シニアの気持ちも踏まえた提案を行いたい。
3割引きの終身雇用制
今、多くの大企業の定年は、形式的には65歳だが、実質的には60歳で退職することが想定されている。60歳以降の再雇用のときは、給料も半分から4分の1へと大幅に減額される。また、会社が関係会社などの再就職先を社員の退職後に世話するのは、今どき官僚か金融機関くらいしかない。このように、会社は「のしをつけてでも社員を追い出したい」とも取れる姿勢なのに、60歳、さらに65歳以上まで居座る気にもなかなかならない。就職するときに謳われていた「終身雇用制」とはなんだったのかと考えさせられる。
一方で、50歳時点での日本人の平均余命は、男性32.39歳、女性38.13歳(厚生労働省「平成27年簡易生命表」より)。平均寿命と健康寿命の差は、男性9.13年、女性12.68年だ(厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」より)。つまり、50歳の男性は、73歳まで健康で82歳まで生きる。50歳の女性は、75歳まで健康で88歳まで生きる。
簡単にまとめると、典型的な現代の日本人サラリーマンは、20歳頃に働き始め、約40年働いた会社を60歳で辞め、75歳くらいまで健康に生き、85歳前後で死ぬ。新卒のときに就職した日本企業の「終身雇用制」とは名ばかりで、20歳以降の健康に働ける55年間の内の40年、つまり約7割だけの雇用を保証しているにすぎない。日本企業の「3割引きの終身雇用制」とでもいえよう。
だからといって、75歳まで今の会社に勤めたいと思っているシニアは少数派だろう。そうなると、定年退職後は別の会社で働こうとする。定年以降の健康寿命、生命寿命がそう長くはなかった昔と違って、定年退職後の余生の長い年月を、仕事をせずに「悠々自適」に暮らせる人は、そう多くない。