シニアの働き方は、流動的な雇用へ
まず、経済的に60歳で辞めてから25年間も年金と蓄えた資産だけで暮らせる人は少ない。次に、夫がずっと家にいることを妻が耐えられないと断固拒否する。これは冗談ではなく、シニア世代の男女どちらの側でも真剣によく語られる話である。また、心身の健康のためにも、ゴルフやジムの運動より、適切な負荷のかかる仕事を続けるほうがいい。平日のゴルフ場や、スポーツジムにあふれている元気なシニアも、それなりの適当な仕事があれば、収入が少なくても働きたいと思っている。
さらに、万一年金財政が破たんした場合、働くことのできない75歳以上の高齢者への年金を停止するよりも、健康で働ける70歳くらいまで年金支給開始年齢を遅らせる政策が採られるだろう。
従って、これからのシニアは、60歳以降健康寿命までの15年程、できるだけ長く働き続けようとする。今の雇用情勢では、ひとつの仕事で15年過ごすというよりも、5年程度の仕事を、負荷と給与を減らしつつ繰り返し転職することになる。結局、職業人としての20歳からの55年の内、約3割の15年は、転職人生になる。
そうと見定めるなら、多くの企業で採られている早期退職を奨励する制度を使って、定年前の55歳くらいに退職して転職してもそう変わらない。転職を繰り返す期間が職業人生の3割から4割に増えるだけだ。それに、子供も自立し始めるし、最初の会社を辞めることで失うものも少なくなってくる。意外とリスクをとれる状況だと気づく。天と地ほどもレベルの違う話だが、小池百合子東京都知事が、衆議院議員から都知事にリスクをとって「転職」したのも、なんとなく気持ちがわかるような気がする。
つまり、現時点で50代以上のシニア世代が自分のライフプランを考えるときは、転職を繰り返すものというのが前提になる。シニアの働き方は、すでに労使共に暗黙の合意の上に、流動的な雇用に向かい始めているのが現実なのである。
日米欧の雇用の流動性と経済・社会
雇用の流動性を進めると、経済にとってどういいことがあるのだろうか。日米欧の雇用の流動性と経済・社会の関係をみてみよう(『失業なき雇用流動化』<慶應義塾大学出版会/山田久>p.142などによる)
雇用の流動性の高い米国の賃金・雇用システムは、解雇が容易な「雇用調整容易」型だ。賃金カットは日本よりも受け入れられにくいが、ドイツよりも柔軟に受け入れられる「賃金やや柔軟」型である。