【ASKA逮捕報道】で蔑ろにされた無罪推定の原則 メディアは自ら自分たちの首を絞めた
ASKAさんの場合、社会的にも注目されており、警察も捜査の手続きには慎重を期していると思うが、人間がやることに「絶対」はない。
彼が実際に覚せい剤を使用していたとしても、身柄はすでに拘束され、すぐに保釈になるのは難しいわけで、覚せい剤の影響による妄想で他者に危害を加えて被害者が出るというような危険性はない。だから、焦って詳細を報じる必要はなく、捜査の結果を待つなり、裁判での真相解明を目指せばよい。
できるだけ早く真相を伝えたいのがテレビの性とはいえ、真相がわからないうちに決めつけるのは拙速というものだ。そのうえ、ASKAさんが逮捕前に乗ったタクシーの車載カメラの映像を民放各社が放映した問題で、自ら取材機会を狭める結果になった。
放映された映像を見る限り、タクシー内で彼が覚せい剤の入手先と思われる者と連絡を取ったり、あるいは誰かに証拠の隠滅を要請したりするなど、事件に関わる内容はない。にもかかわらず、タクシー内といういわば個室の中をのぞき見するかのような映像放映に、インターネット上では「プライバシーの侵害ではないか」という声が次々に上がった。批判は、映像を提供したタクシー会社にも向けられた。
それを受けて、タクシー会社は謝罪。さらに国土交通省が、全国ハイヤー・タクシー連合会など3団体に向けて、「ドライブレコーダーの映像の適切な管理の徹底について」と題する通知を送った。通知は、「ドライブレコーダーの映像は、運転者に対する安全運転指導や事故調査・分析を効果的に行うなど事業用自動車の安全確保のために活用されるべきであるにもかかわらず、(中略)その趣旨に反し乗客のプライバシーに配慮することなくマスコミに映像を提供するという行為が行われたことは、誠に遺憾である」としたうえで、ドライブレコーダーの適切管理を徹底するよう求めている。
これで、タクシーやバスなどの会社はドライブレコーダー映像の提供は自粛するだろうから、メディア側としてはこうした映像を入手することは、極めて難しくなったのではないか。
情報発信者は自制と自覚を
事案によっては、取材の過程でドライブレコーダーなどの映像が重要になる場合もあるだろう。
八王子市内で起きた傷害事件で、警視庁八王子署が2人の中国人を誤認逮捕し、東京地検立川支部が誤認起訴した問題では、弁護人が逃走する犯人が乗ったドライブレコーダーの映像を入手し、それが決め手になって、2人の無実が明らかになった。
今後も、このようにドライブレコーダーや監視カメラの映像が、真相解明に役立つ事件はあるだろう。それを報道機関がいち早く報じることは、公益にかなうばかりか、人権擁護にも資する。しかし、それも映像の提供があって初めて成り立つ。
2010年には、メディアへの映像提供を合法とした判決が出ている。米ロサンゼルス銃撃事件で逮捕され、ロス移送後に死亡した三浦和義元社長の万引きの様子を撮影した監視カメラ画像を、コンビニ店がテレビ局に提供したのは肖像権侵害などに当たるとして、神奈川県内のコンビニなどを相手取って賠償を求めた訴訟で、東京地裁が記者への画像データの提供は「公益目的で相当」として、同店への請求を棄却したのだ。店が提供した理由が「万引きの増加に警鐘を慣らすため」だったとして、違法性を否定した。一方で判決は、番組の録画DVDを複製して、自社製品の販売促進目的で配布した防犯システム販売会社に対しては、損害賠償を命じた。