再審請求が認められていたロシア人元船員の裁判で、検察は有罪を主張しない方針であることが、1月25日に報じられた。これにより、公判で元船員に無罪が言いわたされる見通しとなった。
船員として日本に入国したアンドレイ・ナバショーラフさんは、1997年に北海道小樽市で発生した銃刀法違反事件で懲役2年の実刑判決を受けて服役したが、2013年に「北海道警察の違法なおとり捜査で不当に逮捕され、心身ともに多大な被害を受けた」と再審を請求していた。
「ラクダが針の穴を通るより難しい」といわれる再審のハードルをアンドレイさんが越えられたのは、「当事者」の証言があったからだ。
違法なおとり捜査で不当逮捕、道警は大喜び
当時の道警警部だった稲葉圭昭氏が、「アンドレイさんの逮捕は、警察庁の意向を受けた上司の指示によるもの」と明かしたのである。銃器犯罪とは無縁のアンドレイさんに、稲葉氏らが「拳銃と中古車の交換」を持ちかけ、アンドレイさんが父親の遺品の拳銃を持ってきたところを逮捕したのだという。
「あの頃は、警察庁の号令で、とにかく拳銃を摘発しなくてはなりませんでした。最初はエス(スパイ)として使っていた暴力団員に用意させた拳銃をコインロッカーに入れ、警察署に『○○のロッカーに銃がある』とヤラセの電話をかける『首なし』(持ち主不明の意)の手法を取りました」(稲葉氏)
その結果、道警は拳銃摘発の件数が伸び、稲葉氏はエースとして評価される。
「でも、その後は警察庁と上司がさらなる実績を求めるようになりました。『首なしではなく、身柄を拘束しろ』というのです。そこで、エスたちに『小樽港のロシア人に中古車と拳銃の交換を持ちかけろ』と指示することにしました。小樽港にはロシア人の船員が多く、日本の中古車は人気があるので、アンドレイさんが引っかかったというわけです。
最初は『銃なんかない』と言っていたアンドレイさんも、実家からなんとか探してきたようです。そうしてアンドレイさんが逮捕され、道警の上司たちは大喜びでした。港という水際で食い止めたことで、お手柄として評価されました」(同)
札幌地裁、道警の犯罪に「国民の生命脅かした」
のちに覚せい剤使用などで逮捕された稲葉氏は、03年に自身の公判で、この違法なおとり捜査を告発している。
「このとき、アンドレイさんの件を含めて、拳銃押収の違法な捜査について供述し、当時の上司を名指ししました。『アンドレイさんを有罪にするために、自分も嘘の証言をした』と話したのです。偽証罪に問われて刑が増える恐れもあったのですが、面会に来た妻に相談したら、『家は大丈夫だから、自分の信じていることを話して』と背中を押してくれました。
偽証について送検はされましたが、不起訴でした。事件当時は道警の人間ですから、道警は偽証させたことを認めたくなかったのでしょう。道警はすべて自殺した上司のせいにしていましたが、組織ぐるみの犯罪だったのです」(同)