どうも“トランプマジック”にも陰りが見えてきたようだ。
シリアなどの7カ国の国民の米入国禁止の大統領令が裁判所によって覆されると、米連邦最高裁への上告も断念。「一つの中国」の原則の受け入れ拒否を示唆したかと思うと、米中首脳の電話会談では一転して「一つの中国」の尊重を表明した。そして11日未明(日本時間)、安倍晋三首相との日米首脳会談では、大統領選期間中にあれほど言っていた駐留米軍費用の負担増問題もまったく口にしなかったと伝えられる。
できることなら、この人の頭の中をぶち割って、思考回路がどうなっているのかをみてみたいくらいだが、良いほうに理解すると、「前言には固執しない」という融通性、柔軟性に富んでいるということだろう。
トランプ氏は自伝『TRUMP : THE ART OF THE DEAL(取引の芸術)』のなかで次のように言っている。
「私は融通性をもつことで、リスクを少なくする。一つの取引やアプローチにあまり固執せず、いくつかの取引を可能性として検討する。最初は有望に見えても、大抵の取引には何か不都合な点が出てくるからだ。さらに一つの取引に臨む場合、これを成功させるために計画を少なくとも5つ6つは用意する。どんなに良く練った計画でも、途中で何が起こるかわからないからだ」
これを日米関係に当てはめてみると、トランプ氏は当初、在日米軍の駐留経費は米側が負担していると誤解していたのだが、大統領に当選後、米海兵隊出身のマティス国防長官らから実態を教えられ、安倍首相を前にして、この問題はまったく口にしなくなったということだろう。
その代わりに、尖閣諸島(沖縄県石垣市)について「(米国の日本防衛義務を定めた)日米安全保障条約5条の適用範囲であることを確認」するとともに、沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設については「普天間飛行場の全面返還を実現すべく、移設に向け日米で協力して取り組む」と前向きな発言に終始し、これまでの誤解を暗に認めたというわけだ。
これは、国防長官就任後、初の訪問国に日本と韓国を選んだマティス氏の入れ知恵、あるいは助言の賜物といえるだろう。トランプ氏は軍や公職の経験もないだけに、タブーや秘密事項が多い安全保障問題はまったくの門外漢であり、マティス氏の顔を立てたということかもしれない。
本番は「ゴルフ外交」
わずか32分だったという首脳会談やその後のビジネスランチでの協議では、安保問題を片づけたあと、トランプ氏にとってはフロリダでの安倍首相との差しの「ゴルフ外交」が本番だと思っているのではないか。