被害者や遺族への補償は
――損害賠償や慰謝料など、民事的に責任を問うことはできるのでしょうか
山岸 民事的な損害賠償については、以下の713条のように、認知症であれば本人は損害賠償責任を追わない場合もあります。もっとも、その場合は714条により、その人を監督する者(家族、介護者など)が代わりに責任を負います。
(責任能力)
第七百十三条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。
――被害者感情を考慮すると、無処罰というのは納得いかない気もしますが、被害者や遺族には、犯罪被害給付金などによって補償はされるのでしょうか
山岸 犯罪被害給付金は、あくまで「故意(殺人、強盗、窃盗、強姦など)」による犯罪に対して適用されるものなので、残念ですが一般的な交通事故には適用されません。
――処分保留となっても、再鑑定などで責任能力があると証明されれば、あらためて起訴される可能性はあるのでしょうか
山岸 再鑑定は、世論が高まり捜査関係者を動かすなど、よっぽどのことがない限り行われません。
――ありがとうございました。
このように、現状は、認知症患者によって事故が引き起こされた場合、加害者は処罰されず、被害者や遺族は補償されない。増加する高齢ドライバーの事故防止策の構築と共に、被害者を救済する法整備も急務といえる。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)