ところが金田法相は、上記のような説明をすることから逃げ、虚構の世界に逃げ込んだ。だらだらと、役人に用意してもらった紙を繰り返し読むだけで時間を消費し、それで審議時間が30時間を超えたから採決するというのは、あまりに乱暴だ。
現実に足をつけた議論を
それでも、衆院法務委員会最後となった質疑で、民進党の枝野幸男氏と法務省の林刑事局長とのやりとりには、現実的な議論を展開する可能性を感じることができた。
枝野氏は、「組織的威力業務妨害罪」が「共謀罪」の対象になっていることで、基地建設や近隣に予定されている高層マンション建設に反対するための市民運動や住民運動が摘発される可能性を指摘した。
林局長は、そうした運動体では、「(メンバーの)結合の目的は基地やマンションの建設反対そのもの」として、「共謀罪」の対象にはならないとしたが、枝野氏は、さらにこう説いた。
結合目的は、市民の側からすれば「基地建設反対」「マンション建設反対」であっても、逆の立場から見たらどうか。防衛省や建設業者などにとっては、基地やマンションの建設は「業務」そのもの。反対運動は「業務」に対する「妨害」にほかならない。
実際、沖縄の米軍基地建設の反対運動をしていた人々が、工事の妨害をしたとして威力業務妨害容疑で逮捕されている。それを、組織的に計画していたと判断され、反対運動にかかわっていた人が広く「共謀罪」に問われる可能性は否定できないのではないか。
逮捕されることはなくても、「そんなことになったら困るから、デモや座り込みはやめておこう」となり、市民運動を萎縮させる効果がある、と枝野氏は懸念する。
一方、労働組合の団体交渉などの労働運動は、暴力の行使は別として、労働組合法によって、刑法上の「正当な行為」とされている。枝野氏は、「団体交渉は、外形的には威力業務妨害と区別がつきにくい場合がある。だから、わざわざ法律で、処罰の対象にならないと確認している。外形的に区別がつきにくいのは、マンションなどの建設反対運動の場合も同じ」と述べ、労働運動と違って、なんら権利が保護されないまま、市民らが処罰の対象になってしまう問題をクローズアップした。
このような論議から、組織的威力業務妨害罪を「共謀罪」の対象とするメリットとデメリットを比較して、これを適用罪名のリストから外す、という修正もありではないか。
このような議論をもっと積み重ねてから採決を行うのが、熟議の政治というものだろう。
今後、法案は参議院法務委員会で審議されることになる。法相も、それを追及する野党も、現実に足をつけた議論をしてもらいたい。いったん法律ができてしまえば、それは現実の世界で使われるのだ。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)