ウソやごまかしの果てに…江川紹子が指摘する「共謀罪法案成立後に残された3つの論点」
テロ等準備罪こと共謀罪を新設する法案が可決した。「テロ等準備罪(共謀罪)がないと東京五輪が開けない」「一般人は警察の捜査や、それ以前の調査の対象にもならない」などといったウソやごまかしの果てに、参議院法務委員会での採決を行わず、徹夜国会で採決を強行するという乱暴な決め方だった。
恣意的運用への懸念
議論が尽くされた後、最後は多数決となるのは致し方ないにしても、参院法務委員会での審議時間は18時間に満たず、とても問題点が議論し尽くされたとはいえない。法律は、早々と来月11日にも施行されることになるが、共謀罪をめぐる論議はこれで終わりではない。テーマは3つある。
(1)これがどのような使われ、国民の言論表現の自由を萎縮させないようにするかという運用の問題。
(2)積み残された問題点について議論し、弊害をより小さくするための法改正の問題。
(3)この法律を捜査機関にとって使い勝手のいい形に“強化”しようとする意見など安全のための捜査権限の強化と、国民の知る権利や言論表現の自由など人権擁護のかねあいをどう考えるか、という問題。
まず(1)について。
もっとも心配なのは、この法律が捜査機関によって恣意的な運用をされることだ。
「組織的犯罪集団」の定義があいまいで、ATMから預金を引き出すなどの日常的な行為が犯罪の「準備行為」とみなされる可能性があり、捜査機関の裁量の余地が大きい。そのため、政府に批判的な市民活動を監視する口実に共謀罪が使われたり、それによって言論表現の萎縮を招く可能性が懸念されてきた。
そうした懸念は、決して根拠のないことではない。これまでも、警察が政治的に法律の適用を行うことはあり、多くの場合、裁判所もそれを追認してきた。
たとえば、政治的なビラを配布したことで逮捕された事例。2004年に東京都立川市の自衛隊官舎の郵便受けに、自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配布した反戦市民団体の3人、あるいは東京都葛飾区のマンションで同様に日本共産党の都・区議会報告を配っていた男性が、住居侵入罪で逮捕・起訴された。
その外形的行為は、マンションの郵便受けにピザや弁当、不動産等の商業的なビラの配布と変わらない。それにもかかわらず、上記2例は、裁判でいずれも有罪(罰金刑)が確定している。
あるいは、公務員の政治的行為に関する事例。03年に自宅近くのマンションで共産党の機関紙号外などを配布した社会保険事務所職員が、04年にはやはり勤務時間外に警視庁官舎に共産党のビラを配布した厚生労働省課長補佐が逮捕され、国家公務員法違反(政治的行為の制限)に問われた。最高裁は前者を無罪、後者を有罪とした。
一方、安倍晋三首相の妻昭恵氏は、自分付きの国家公務員を少なくとも15回、選挙活動に帯同。公務員らが、昭恵氏の街頭演説や商店街の練り歩きにも同行している状況をとらえた写真が、SNSなどで多数出回ってから2カ月半がたつが、捜査機関が昭恵氏や彼女付きの国家公務員らを捜査したという話は聞かない。
捜査は、政権との距離に関係なく公正に行われているのか、少なからぬ国民が疑問を抱いている。
また、共謀罪審議のなかで、法務省の林真琴刑事局長は「犯罪の嫌疑が生じていないのに、犯人かどうかを確定したり証拠を確保したりするため、尾行や張り込みをすることは許されない」と断言したが、それは公安警察の実態を無視したものだ。