ウソやごまかしの果てに…江川紹子が指摘する「共謀罪法案成立後に残された3つの論点」
一般市民にも馴染みのある刑事警察の活動は、犯罪捜査が基本。事件が発生し、なんらかの被害や法令違反があった場合に、証拠を収集して被疑者検挙に至るのが一般的だ。だが、大分県警別府署刑事2課の捜査員が、労働組合が入る建物の敷地に無断で侵入し、ビデオカメラを設置して盗み撮りしていた事件など、例外がないわけではない。
一方、公安警察の場合は、犯罪捜査とは必ずしも関係なく、ターゲットとする個人や組織について、恒常的に監視し、情報を収集する。情報収集そのものが目的ともいえる活動が多い。
たとえば、警視庁公安部がイスラム教徒の個人情報やモスクへの出入り状況などの情報を収集していた状況は、データが流出する事件で明らかになった。
先の社会保険事務所職員が国家公務員法に問われたケースでは、公安警察が約1年にわたって尾行などの内偵調査を続け、当人が歯医者に行ったり友人と観劇するといった私的行為までがビデオ撮影されていることもわかった。
そうして集めた情報をどう活用するかは警察次第だ。たとえば岐阜県警は、中部電力の子会社が建設を予定していた風力発電所について調査していた住民について動向を調べ、会社側に情報を提供していた。あるいは、社会保険事務所職員のように、長期間の監視の結果、法令違反に問えそうな行動を見つけたとして立件するという場合もある。
共謀罪も、公安警察が情報収集活動に利用し、政治的な運用をすることがありはしないかなど、運用の在り方を注視していく必要がある。そのためにも、報道機関の役割は大きい。
今後、法務省が法の解説資料を作成したり、警察庁が運用に関するマニュアルや基準などを全国の警察に通達することが予想される。そうした文書は速やかに公開され、専門家によるチェックや、国会での議論に供されるべきだ。
「国民の自由と権利」を不当に制限しないために
続いて(2)について。
本当に277の罪名について共謀罪が必要なのかという点では、議論はほとんどされていないに等しい。10年ほど前に、早川忠孝弁護士(元衆議院議員)が自民党法務部会の条約刑法に関する小委員会の事務局長として、議論の末に共謀罪の対象犯罪を123から155まで絞り込んだ。早川氏のブログによれば、「10年前には法務省の担当者も外務省の担当者もこれで結構です」と言っていたという。
対象に法人税法や金融商品取引法、破産法など企業活動に影響しかねないものまでが対象に含まれていることで、ビジネスロイヤーたちから懸念の声も挙がっている。
もう一度、対象罪名を検討し、絞り込みをする論議をし、場合によっては法改正も必要になるのではないか。