しかしジャーナリストのロバート・パリー氏によれば、ヒラリー氏の夫であるビル・クリントン元大統領はモスクワで行った講演の対価として、ロシア政府系の投資銀行から50万ドルを受け取ったという。フリン氏の受け取った金額の10倍近い。
さらにクリントン一家が主宰するクリントン財団は、何年にもわたりサウジアラビアから数百万ドルを受け取っている。サウジアラビアは中東と北アメリカの聖戦主義者を支持し、9.11テロ実行犯の大部分を生み出し、米国の外交政策に大きな影響力を及ぼしている。米国民にとってはフリン氏がロシアからわずかな金額を受け取ったことよりも、はるかに大きな問題のはずである。
「第2の冷戦」を煽る情報機関
もしサイバー攻撃を仕掛けたのがロシアでないとすれば、誰がやったのか。
ひとつのヒントがある。内部告発サイト、ウィキリークスは今年3月、大量のCIA機密文書を公開した。それによると、CIAは他国が生産したサイバー攻撃ソフトを所有しており、それにはロシア製ソフトも含まれる。つまりCIAは自分で民主党全国委をサイバー攻撃し、ロシアの仕業に見せかけることもできたわけである。
弁護士で平和活動家・著作家のダン・コバリック氏は「CIAがロシアを陥れるために民主党全国委の電子メールを入手し、漏らしたと疑うのはもっともなこと」と述べる。4月15日の本連載でも指摘したように、CIAは米国の軍事介入を正当化する偽情報を流布してきた前歴がある。2003年のイラク侵攻前には同国が大量破壊兵器を保有していると主張したが、結局事実ではなかった。
CIAは米ロの緊張緩和に反対している。ロシアをサイバー攻撃の犯人に仕立て上げたとしても不思議ではない。
トランプ大統領は少なくとも外から見る限り、ロシアのプーチン政権と友好関係を築こうとしている。その動機が商業的利益にあるとしても、友好そのものは間違っていないし、日本にとっても歓迎すべきことである。薄弱な根拠に基づいてロシアを悪者扱いし、「第2の冷戦」を煽る情報機関やメディアに踊らされないようにしたい。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)
●参照文献(本文に記載したものを原則除く)
Trump, Putin, and the New Cold War(2017.3.6, newyorker.com)
WikiLeaks Releases Trove of Alleged C.I.A. Hacking Documents (2017.3.7, nytimes.com)
John McAfee : ‘I Can Promise You It Wasn’t Russia Who Hacked the DNC’(2017. 3.21, sputniknews.com)
Dan Kovalik, The Plot to Scapegoat Russia: How the CIA and the Deep State Have Conspired to Vilify Putin(2017, Skyhorse Publishing)