過去には厳しい判決
では、もし「週刊新潮」が報じている内容が事実であり、茂木氏が有権者に無償で衆議院手帖を配っていたとすれば、公職選挙法違反に当たるのだろうか。弁護士法人ALG&Associates 執行役員の山岸純弁護士は、次のように解説する。
「公職選挙法第199条の2は、『公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む)は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない』として、金員や金券、ビールなどの物を有権者に送ってはならない、と定めています。
今回の場合、まず『600円の衆議院手帖』が寄附の対象となるような『価値のある物』に該当するかどうかですが、この法律の趣旨は、投票を“物”で“釣る”行為を規制するところにあるわけですから、金額や物の種類に関係なく、『せっかく手帖をもらったんだから、この人に投票しよう』という気にさせるに十分であれば、該当することになります。報道によれば、『茂木氏の事務所の名刺も一緒に配った』とのことですので、なおさらでしょう。
次に茂木氏は、『政治活動用資料として配布しており』と弁明しています。よく選挙の際に『うちわ』が配られ、これが寄附に該当するのかどうかがニュースとなりますが、選挙管理委員会が『政治資料などに該当する』として配布を承認した『シール』が貼付されているから許されているわけです。手帖の場合は、このような『シール』などついていないでしょうから、ムリな言い訳にすぎないと思います。
公職選挙法第199条の2に違反の場合、1年以下の禁固か、30万円以下の罰金が科せられますし、立候補などの公民権が停止されることもあります。実際、議員(地方議会)の名前で、選挙区内の支援者や遺族に初盆の供花を送ったという事件では公民権を3年間停止する判決が言い渡されるなど(大阪高裁平成13年12月18日判決)、厳しい判断がなされています。
とはいえ、こういった事件は、松島みどりさんの『うちわ配布』事件のように、いつの間にかうやむやにされて終わってしまうことが多いようです。『私の指示で行っていましたが、法律の勉強が足りませんでした。申し訳ありません』と、最初からしっかりと謝罪を示したほうが、歴史的な日本国民特有の感情からして、まだ許容されるのではと勝手に思っています」
そこで気になるのは、果たして茂木氏が手帖配布の違法性を認識していたのかどうかであるが、前出と別の国会議員秘書はこう語る。
「茂木氏は『政治活動用資料として配布している』と釈明していますが、収支報告書の作成にあたっての説明会でも、寄附行為についての法的知識については講習を受けますので、無料で議員手帖を配布することが寄附行為に該当することは、国会議員も国会議員秘書も当然理解しています。それを認識した上で配布を行っていたのなら、大臣としての資質が問われるでしょう」
そもそも短命といわれている第3次安倍第3次改造内閣だが、発足早々、大臣が疑惑のもみ消しに走り回っているのは、情けない限りだ。
(文=深笛義也/ライター、協力=弁護士法人ALG&Associates執行役・山岸純弁護士)