福岡県の小川洋知事が近く辞職する見通しとなり、福岡県政界がざわついている。小川知事は現在入院中。2月9日、服部誠太郎副知事が臨時記者会見を開き、小川知事が肺腺がんと診断されたと明らかにした。2月12日予定だった公務復帰は3月31日まで延期。来年度予算の成立にメドがついた後、辞職するとみられている。
小川知事が辞職すれば、50日以内に知事選が実施されることになるが、福岡県政界がざわつくのは、このところ選挙となると、地元選出の2人の国会議員、麻生太郎財務相と武田良太総務相が激しいバトルを繰り広げてきたからだ。
麻生氏と武田氏は、地元政界では知らぬ人がいない「犬猿の仲」である。2016年10月23日に行われた衆院福岡6区補欠選挙。自民党の鳩山邦夫元総務相の死去にともなう補選で、麻生氏は自らに近い県議会のドンの息子を県連推薦候補にしたうえ、自ら選対本部長に就任して支援した。一方、武田氏は邦夫氏の次男・二郎氏を支援した。激しい全面対決の結果は、二郎氏の圧勝だった。
19年4月7日の知事選では、麻生氏は応援してきた現職・小川知事のすげ替えに走り、新人を擁立、自民党本部の推薦を得た。これに反発した武田氏は「反党行為」とされても小川氏を支援。投票結果は現職が100万票近い大差で新人を振り切った。この知事選は「麻生vs.武田の代理戦争」と言われた。
いずれも武田氏側の勝利だが、この頃までは武田氏はまだ大臣経験もなく、派閥領袖の二階俊博自民党幹事長の片腕という存在。福岡のバトルは全国的には「麻生vs.二階」という構図で報じられてきた。
しかし、今や武田氏は、菅義偉内閣で麻生氏と並ぶ重要閣僚であるだけでなく、菅首相の“天領”とされる総務省を預かる身であり、菅首相肝入りの「携帯電話料金の値下げ」を担当するほど首相に近い存在。来る知事選で、また麻生氏と武田氏の2人が全面対決することになれば、結果いかんでは、福岡県政界で厳然たる存在感を示してきた麻生氏の力が一気に弱体化し、政界引退にすら追い込まれかねないというのである。
「麻生氏は、県議会議員団と連携して福岡県政界を牛耳ってきたが、いつまで通用するか。今度しくじれば、武田氏に天下を取られるだろう」(自民党関係者)
麻生氏と武田氏、“手打ち”はない?
ただ、現実に知事選で麻生氏と武田氏が対決するかというと、今回は状況が異なると見る向きもある。
「自民党の県連内には『コロナ禍の中での分裂選挙はいかがなものか』『任期途中の病気辞職という緊急事態。臨時代理をしている服部副知事が後継になるなら、自民党が一致して推せるのではないか』といった声があります」(地元のマスコミ関係者)
自民党の苦しいお家事情も影響しそうだ。1月31日投開票だった同県の北九州市議選で自民党が公認した22人のうち6人も落選したことで衝撃が走った。今年は10月までに必ず衆院選がある。菅内閣の支持率下落が直撃して自民党に逆風が吹いている現状で、衆院選を考えれば知事選で内輪モメしている余裕はない。麻生氏も武田氏もともに菅内閣の閣僚という立場を考えれば、なおさらのことだ。
もっとも、まだ小川氏が辞職したわけではなく、知事選の構図は流動的。「福岡市の高島宗一郎市長が知事への鞍替えに色気あり」(前出の地元マスコミ関係者)との情報もあり、候補者次第ではどうなるか分からない。
「麻生vs.武田のバトルが『1回休み』になるのかどうか。たとえそうなったとしても、あくまで休戦。2人が手打ちすることはない」(自民党関係者)
麻生氏80歳、武田氏52歳。早晩、世代交代が訪れるか。
(文=編集部)