「よく言われるのは、小動物への虐待から始まるとか、あるいは最初は暴行から始まって、それでは満たされない血の渇きのせいで殺人に至る。そういう殺人鬼に育っていく過程というのがあるのですが、今のところ、そういう前段階の話も出てきていないので、まだまだわからないところがあります。
今言われているように、一人暮らしを始めてから殺人と解体を繰り返すようになったということになると、本当に世界的に見ても奇異な事件でしょう。遺体を解体するというのは、殺人そのものよりもずっとハードルが高い。解体の方法をインターネットで調べたと言っているようですけど、実際にやるとなったら、血は出る、臓物がある、臭いはきつい。やり方がわかったからといって、できるもんじゃない。
たとえ相手のことをそんなに知らなかったとしても、普通は1人殺すだけでも精神的にダメージを受けるわけです。しかも死体を埋めたりするわけじゃなく、わざわざ解体している。それを精神にまったくダメージを受けずに次から次にやっていたというのが、非常に特異なところですね。いきなり殺してから死体の解体に熟達するには早すぎるので、これ以前にもやってたんじゃないかという気が、どうしてもしてしまう。警察もそのあたりは必死に洗っているとは思うのですが……。本当にこれが初めてだとすると、やってみたらできてしまった、それで犯行が加速して繰り返したみたいな新しいタイプの殺人者ということになるでしょう」
問われる、殺人者を見る社会の眼
殺人の快楽に、取り付かれてしまったということなのだろうか。
「日本の警察は、動機至上主義みたいなところがあって、最初に動機があってこれこれこうだから殺したんです、みたいなストーリーにしないと、裁判も持たないというところがあります。今伝わってくる彼の供述というのは、『お前、金取ってるんだろ』『取りました』みたいなやり取りがあって、そういう断片的な言葉から『楽して暮らしたいと思いました』みたいな動機に落とし込もうとしているように見えますね。
だけど金目当てでやるには大変すぎるんで、どこかに殺意がある。『殺したいから殺しました』というのを、警察が認めたくないだけのような気がします。アメリカではそんなことはなくて、快楽が動機だという連続殺人鬼がけっこういることと、外形的事実が揃っていれば裁判では内面までは踏み込まないということがあるので、『俺は殺したかったんだ』というのがそのまま通っているように思います」
日本でもこれまで、快楽殺人と思われる事例はあったが、法廷はそれを認めてこなかった。殺人者を見る社会の眼が、問われている事件だといえるだろう。
(文=深笛義也/ライター)