妊娠・出産は女性にとって人生の節目。
それが相手にとっても自分にとっても待ち望んだことであるのが本来望ましい形だが、残念ながらそうはならないことが多々あるのも事実である。そして、望まない妊娠、望まない出産で傷つくのは、多くの場合で一方的に女性だ。
虐待、レイプ、不倫…様々な理由から女性は周囲に(ことによると女性自身にも)祝福されない子を身ごもってしまう。『漂流女子 ――にんしんSOS東京の相談現場から――』(中島かおり著、朝日新聞出版刊)は、その事実を一人では抱えきれなかった女性たちの記録である。
娘に保険証を渡さない親
「生理が遅れている」と、著者の中島さんのもとに相談のメールを送ったあやさん(19歳)は、手元にお金がなく妊娠検査薬も買えない状態だったが、すでにつわりの症状が出ており、妊娠している可能性は高かった。
しかし、もし妊娠していたとしても、あやさんはそれを誰にも明かせなかったはずだ。彼女には複雑な事情があったのだ。
あやさんは小学生の頃から実母のネグレクトと、実母の再婚相手である義父の暴力に耐えてきた。実家を出る機会をうかがっていた彼女は、高校時代に最初の妊娠・出産を経験すると逃げるように実家を出たが、彼女が扶養から外れることでもらえる手当が減ること、税金などの支払いが増えることを理由に、住民票を移すことを拒否された。自分の保険証すら渡してもらえなかったという。
元彼の子を再び妊娠 彼に結婚の意思はなし
実家を出たあやさんが身を寄せたのは、子どもの父親である彼氏の実家だ。彼氏の母親はあやさんを我が子のようにかわいがっていたというが、ほどなく二人は別れることになってしまった。
行き場のないあやさんは、彼の母の厚意もあって、別れた後も相手方の実家に残ったが、結果的にはそれが悪い事態を招いてしまった。あやさんはまたしても彼の子を身ごもってしまったのだ。そして彼の方には新しい彼女がおり、結婚する意志はなかった。あやさんは多くを語らなかったが、彼との関係を続けたのには、居場所を失わないために彼の求めを断れなかった節があったという。
唯一の味方である彼の母に嫌われたくない。だから彼にも妊娠の事実を言えない。中絶をするにもその費用がない。もちろん自分の実家は頼りにならない。あやさんが中島さんに相談したことにはこのような背景があったのだ。
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あやさんの例は極端ではあるが、めずらしい例とは言えない。
本書に収められているのは、搾取・虐待・暴力によって、人に言えない形で妊娠してしまった女性たちの記録だ。
なぜ彼女たちは孤立してしまったのか。
なぜ彼女たちは誰にも助けを求められなかったのか。
それぞれのケースを読めば、法制度、社会のあり方など、日本が抱える課題の一端が見える。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。