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藤和彦「日本と世界の先を読む」

21日の伊豆大島近海地震、首都直下地震の前兆か…深部地震多発、熱エネルギー蓄積

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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西之島(海上保安庁のHPより)

 4月21日午後9時30分頃、伊豆大島近海で地震が発生した(マグニチュード4.3、最大震度3)。伊豆大島近海では22日にかけて合計11回の地震が連続したが、幸いなことに被害は発生していない。伊豆大島近海では昨年12月18日にもマグニチュード5.1(最大震度5弱)の地震が発生している。

 東日本大震災以降も日本各地で大規模な地震が発生しているが、筆者は伊豆半島周辺で発生する地震に注目している。世間ではあまり知られていないが、伊豆半島周辺は地震の多発地帯である。2014年5月5日に伊豆大島近海でマグニチュード6.2(最大震度5弱)、2006年4月21日に伊豆半島東方沖でマグニチュード5.8(最大震度4)と比較的大きな地震が起きている。1978年には伊豆半島近海地震(マグニチュード7.0、最大震度5)により、大きな被害が生じている(死者・行方不明者26人)。

 政府の地震調査委員会は2014年に「首都直下地震は今後30年間に70%の確率で起きる」との見解を示しているが、想定される震源地を明らかにしていない。筆者は「伊豆半島周辺が震源地になる可能性が高いのではないか」と考えている。1923年に発生した関東大震災(マグニチュード7.9)の震源地が伊豆半島周辺であるとの説が有力だからである。被害の大半は東京の大火災で生じたことから見逃されがちだが、「地震発生直後に横浜や鎌倉に津波が押し寄せた」とする記録が残っている。

 大方の地震学者が信奉している「プレートテクトニクス説」に疑問を抱いている筆者が参考にしているのは、角田史雄埼玉大学名誉教授が提唱する「熱移送説」である。熱移送説については、2019年6月25日付コラムなどで紹介しているが、改めて説明すると、以下の通りである。

(1)熱移送説で主役を務めるのは、「プレートの移動」ではなく「熱エネルギーの伝達」である。その大本のエネルギーは、地球の地核から高温の熱の通り道に沿って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こす。

(2)熱エネルギーの表層での出口の一つは南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)に存在し、南太平洋から出てきたPJ(インドネシアからフィリピンに向かい台湾を経由して九州へ)とMJ(フィリピンから伊豆諸島を経由して首都圏へ)という2つのルートで日本に到達する。

(3)熱エネルギーが伝わると熱のたまり場では噴火が起き、地盤に「問題」がある地点では地震が発生する。熱エネルギーの速度が一定であることから、火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることが原理的に可能である。

 以上が熱移送説の概略であるが、最近の状況について角田氏は「PJルートのほうがMJルートよりも熱エネルギーの流れが強い」と見ている。

 PJルートでは、4月中旬に鹿児島県トカラ列島で起きた群発地震が世間の注目を集めたが、MJルートでは目立った動きはない。しかし角田氏は「噴火活動が活発である西之島の動向に注目すべきである」と指摘する。

 西之島は、東京の南方約930kmにある火山島である。MJルート上に位置することから、西之島の火山活動から首都圏に到達する熱エネルギーの強さが判断できるというわけである。

 西之島は2013年の大噴火で面積が2倍以上になり話題となったが、その後も2015年、2017年から今年にかけて断続的な噴火を繰り返している。このことは熱エネルギーが首都圏に継続して到達していることを意味している。首都圏に流れ込んでいる熱エネルギーにより、千葉県東方沖や茨城県などで比較的大きな地震が多発しているのに対し、伊豆半島周辺では大きな地震が発生していないことから、熱エネルギーの放出が進んでおらず、今後大規模な地震が発生するリスクが高まっているのではないだろうか。

東海道新幹線や東名高速道路に甚大な被害の恐れ

 角田氏は今後の動向について「最近、地下250キロメートルから70キロメートルにかけて深部地震が多発している。このことから地核から表層に運ばれる熱エネルギー量が拡大していると推測できる。今後、北海道から東北沖の海域をはじめ日本のどこかマグニチュード8クラスの地震が発生する可能性が高い」と危惧している。

 伊豆半島周辺では関東大震災後の1930年に北伊豆地震(マグニチュード7.3、死者・行方不明者272人)が発生している。北伊豆地震では、震源に近い静岡県三島市で震度6を観測し、地震断層が掘削中のトンネルを塞いでしまうほどの被害を伊豆半島地域にもたらした(地元では「伊豆大震災」と呼ばれている)。北伊豆地震が発生するまでの半年間、周辺で群発地震が起きていたことから、今後、伊豆半島周辺で地震が多発するようになれば、要警戒である。

 北伊豆地震クラスの地震が発生すれば、この地域を通過する東海道新幹線や東名高速道路などで甚大な被害が発生する可能性が高い。南海トラフ巨大地震の発生に備えて西日本の太平洋沿岸で津波対策が議論されているものの、伊豆半島周辺についての対策は議論の俎上にすら上っていないのが現状である。阪神淡路大震災が発生するまで「神戸では大きな地震が起きない」と妄信されていたように、伊豆半島周辺についてはまったくといってよいほど問題視されていないが、果たして大丈夫だろうか。

 新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するため3度目の緊急事態宣言が発出される直前の状況下で、大規模地震の発生を予測することで世の中をいたずらに騒がせるつもりは毛頭ないが、「備えあれば憂いなし」との願いから、拙稿をしたためた次第である。

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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