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筈井利人「陰謀論を笑うな!」

元スパイ襲撃事件、イギリスに重大な不審点…捜査拒否、ロシア関与の根拠提示も拒否

文=筈井利人/経済ジャーナリスト
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 今回、神経剤を分析した英国防科学技術研究所は、親子が襲撃されたとされるソールズベリーからわずか7キロのポートンダウンにある。過去数十年にわたり、化学有害物質を使った人体実験を行なっていたとされる、いわくつきの軍事施設だ。研究所の所長は、襲撃に使われた毒物がポートンダウンで製造された可能性を否定している。

 化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)が4月4日、事件を協議するために開いた執行理事会で、ロシアは英国との事件の共同調査を提案したが、賛成国は少数にとどまり却下された。理事会の41カ国中で賛成したのは6カ国で、英国など15カ国が反対、17カ国が棄権した(残り3か国は会合に不参加)。

イラク戦争の二の舞か

 国際法に沿った解決を拒み、明確な証拠がないまま相手を一方的に断罪する構図は、15年前のイラク戦争開戦時をいやでも連想させる。

 2003年3月に始まったイラク戦争で、主体となった米英が開戦の理由としたのは、(1)イラクは大量破壊兵器を保有している、(2)イラクは01年9月11日の米同時多発テロに協力した疑いがある――の主に2点だった。しかし、これらはいずれも根拠に乏しいもので、米英政府はイラクの脅威を煽るため意図的な情報操作をしたとみられている。

 ブレア首相率いる英政府は、ブッシュ政権を上回る宣伝活動を展開し、しかもその内容は米国以上にお粗末なものだった。ブレア政権が03年2月に発表したイラクの大量破壊兵器に関する報告書は、驚いたことに、その大部分が他人の論文や出版物からの引き写し、つまり盗作だった。報告書は英情報機関MI6の諜報員が執筆したとされていたが、じつはブレア首相の側近として知られるアリスター・キャンベル首相補佐官の若手スタッフが作成したものだった。

 それでも引き写した部分は大半が情報として正確なものだった。より大きな問題となった箇所は、イラクが国際的テロを支援しているという当時の米英政府の主張を裏づける目的で、報告書の作成者によって勝手に書き直されたり書き加えられたりした部分だった。

 ブレア首相の側近たちがこの報告書作成にMI6を使わなかったことには、実は理由があった。当時のMI6の分析官たちは、この問題におけるブレア政権の主張を否定していたのだ。MI6が独自に作成した正式な分析報告では「(米同時多発テロを起こした国際テロ組織アルカイダの指導者)ウサマ・ビンラディンの目的はイデオロギー的に今日のイラクとは相矛盾しているため、イラクとアルカイダの間に確認された接点は存在しない」と明示していた(ジョン・ストーバー、シェルダン・ランプトン共著、神保哲生監訳『粉飾戦争:ブッシュ政権と幻の大量破壊兵器』<インフォバーン>)。

 イラク戦争は、こうした公式の偽ニュースともいうべき嘘の情報、不確かな情報を根拠に始められ、イラク市民を中心に数十万人もの命を奪ったのである。今回の襲撃事件に関する英米の行動やそれを支持するマスメディアの報道を見る限り、イラク戦争の教訓を学んだとは思えない。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)

筈井利人/経済ジャーナリスト

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