日本にとって深刻なのは、3者会談あるいは4者会談が実現すれば、朝鮮半島情勢を含む東アジア情勢が話し合われるのは必定であり、まさに「日本外し」にほかならないことだ。日本が会談に加われないことになれば、米国から間接的に結果を聞くしかなく、東アジアへの日本の影響力はほとんどなくなってしまう可能性が出てくる。
しかも、南北朝鮮が対話のパイプをつくれば、北朝鮮の脅威に対する最前線が隣国の韓国、あるいは中国から、日本海を通り越した日本に直接的に向かうことになる。そうなれば、従来の「日米韓」が一体化した安保体制が崩れ、日本が脅威にさらされ、軍事的、外交的にこれまで以上に「米国の属国化」が進むことも憂慮されよう。
このような「日本外し」が進めば、喜ぶのは南北朝鮮であり、中国だ。しかも、ただでさえ「米国ファースト」を掲げ、ときには同盟国にさえ排他的な動きを見せる米国のトランプ大統領が政権の座にあるだけに、日本外交にとっては2重苦、3重苦となることも考えられる。
北朝鮮は今後、ますます国際協調、融和姿勢を強めて、米国をも巻き込んで、北東アジアにおける発言権を増すことに腐心するに違いない。それが、金正恩政権の維持につながるからだ。まだ36歳の金委員長は、常識的に考えれば今後30年間は北朝鮮の最高指導者の座に座り続けるだろう。兄・金正男氏を殺したのは、そのためだからだ。
30年後には習近平中国国家主席もいないだろうし、トランプ大統領も安倍晋三首相も文大統領も、今の各国最高指導者は誰もいなくなる。非核化で、のらりくらりと時間稼ぎすれば、いずれ金委員長による南北統一も実現可能となるかもしれない。金委員長が北東アジア情勢の主導権を握る可能性すらある。こう考えると、今回の南北首脳会談はほとんど成果がなく、蜃気楼のようなものとさえ映ってしまう。
唯一の頼みの綱は、今後予定される米朝首脳会談で、トランプ大統領が強硬姿勢を全面に出して、北朝鮮の非核化を実現させられるかどうかであろう。とはいえ、トランプ大統領ですら文大統領同様に骨抜きにされれば、北東アジアに未来はない。日本が北朝鮮の核攻撃を受けて消滅しても誰も助けてくれないという深刻な事態すら、予想されるのである。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)