11年ぶりに韓国と北朝鮮の首脳会談が行われたが、それはまさに出来の悪い「政治ショー」以外の何ものでもなかった。韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が恋人同士のように手をつないで、軍事境界線をまたいで北朝鮮側と韓国側を行ったり来たりするなど、まるで児戯に等しい行為だ。
文大統領は熱に浮かされたように、長い間待ち焦がれた恋人とのデートを楽しんでいるようにみえた。金委員長は文大統領の心を知りながら、“恋心”を弄んで主導権を握り、文大統領を意のままに操っているようだった。満面に笑みをたたえて、相手の歓心を買おうという下心がみえみえだというのは言い過ぎだろうか。
その証拠に、会談後の共同宣言である「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」を仔細に読んでみると、実効性も具体性もない、まったく中身がない内容だからだ。筆者は日本の全国紙5紙と朝鮮半島報道では比較的定評がある東京新聞の6紙をすべて読んだが、6紙とも1面トップで首脳会談を報じて、メイン見出しに「完全な非核化」の文字が躍っていた。共同宣言では非核化について、次の2カ所で言及している。
「南と北は完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認した」
「南と北は、朝鮮半島の非核化のための国際社会の支持と協力のため、積極的に努力することとした」
しかし、これを読んでも、具体的にどのようにして、どのような段階を踏んで非核化をするのか、まるで不明だ。そもそも「非核化」がどのような状態であるかもわからない。北朝鮮が核弾頭を何発所有しているのか、射程はどれほどなのか――など、まったく触れていない。かなりあいまいな文章である。
しかも致命的なのは、南北は非核化という「共同の目標を確認し」「積極的に努力する」という言い方で、本当に金委員長が北朝鮮を非核化することに全面的に同意したという言い方にはなっていない。まるで、すぐにでも「非核化」する気にさせているだけで、これでは巧妙な逃げであり、時間稼ぎと言われても仕方があるまい。極端な言い方をすると、ペテン師のような口上である。
それに、北朝鮮は金日成時代にも、金正日時代にも、当時の米国大統領が直接会って、「非核化」を約束させたのだが、それをことごとく破ってきた歴史がある。共同宣言の「目標」や「努力」という表現では、「再び歴史は繰り返される」と思われるのは当然だ。
「日本外し」
さらに、共同宣言では朝鮮戦争の休戦協定について言及し、終戦を宣言して平和協定に転換するために、南北と米国の3者、あるいはそれに中国を加えた4者による会談を開催するとしているが、これは実質的に従来の北朝鮮も核問題を話し合う6カ国協議に代わるものだ。
平和協定を結ぶためには、南北の非核化について協議しなければならず、6カ国協議同様、時間だけかかって結局結論は出ず、その間、北朝鮮の核開発の時間稼ぎに利用されることは目に見えているのである。