米国と中国の立場
他方、米国の外交、安全保障関係の陣容は北朝鮮に対する強硬派を揃えている。ボルトン国家安全保障担当補佐官は「北朝鮮といかなる合意を行っても、北朝鮮はこれを破るので意味はない」と主張してきている。ポンペオ新国務長官は外交より軍事行動を重視する人物である。マティス国防長官は「外交手段が尽きれば北朝鮮に対する軍事行動を排しない」としている。
つまり、ホワイトハウス、国防省、国務省のいずれも、北朝鮮に厳しく臨む人々で固められている。
6月初旬までに行われる米朝首脳会談を念頭に置いた場合、今回の南北首脳会談で、状況は何も変化していない。米国のトランプ大統領は3月10日、ペンシルベニア州での支持者集会で、米朝首脳会談について「世界にとって最高の合意ができるかもしれない」と述べると同時に、「早々に立ち去るかもしれない」とも述べ、成果なく失敗する可能性もあるとの認識を示した。この状況の継続である。
こうしたなか、日本と朝鮮半島の関係で新たな環境の変化はない。今、変化の可能性を感じさせるのが中国・北朝鮮関係である。習近平体制下、中国は北朝鮮を特別扱いしない方針を出してきた。これを受けて、金正恩委員長も中国訪問を行わなかったが、米国の対北朝鮮軍事行動が囁かれるなかで、金正恩委員長は「北京詣で」をした。
中国の基本的立場を整理しておこう。
(1)北朝鮮体制の不安定化、国内混乱は望ましいことではない
(2)米軍の支配下にある韓国と、中国の間に、北朝鮮というバッファー地域を持つのは望ましい、つまり北朝鮮政権の消滅は望まない
(3)北朝鮮の軍事優先の国内政策には賛同できない
(4)北朝鮮が原因での米中軍事衝突は絶対に避けなければならない
こうしたなか、中国の対北朝鮮政策は行動の幅が広いだけに難しい。今回の宣言に、「南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を積極的に推進していくことにした」との文言がある。
ここには、ロシアが入っていない。つまり南北朝鮮は「ロシアは、朝鮮半島の安全保障を協議するうえで、重要ではない」と判断している。ロシアからしても、北朝鮮にはさしたる関心はない。ロシアは北朝鮮をなんとなく中国の勢力圏とみなしている。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)