中国の李克強首相が5月8日、「やっと」来日した。「やっと」と断りを入れたのは、2013年3月の就任以来初来日だからだ。中国首相としては7年ぶりとなる。
なぜ隣国同士にもかかわらず、これほど空白期間が長くなったのか。日本政府が12年、尖閣諸島を国有化したのを機に中国各地で反日デモが吹き荒れ、日中は一触即発状態に陥っていたからだ。しかし、両国は今年の平和友好条約締結40周年という好機を見据えて、今回の李首相来日に「やっと」こぎ着けた。
この「そろり」とした歩み寄りの背景には、中国側の事情もある。勢いのあった経済成長のスピードが以前より鈍化、さらにアメリカとの貿易摩擦もあり、中国は日本と連携することで「中国は保護貿易主義」との主張を強めるトランプ政権をけん制できる。さらに習近平体制が推進するシルクロード経済圏構想「一帯一路」に日本の協力も不可欠だ。そこで、年内に習主席が訪日して日中関係を強化するため、その地ならしとして李首相が来日したのだ。
そうしたなか、米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の会談が注目されている。その前段として5月、米国のポンペオ国務長官が訪朝し、北朝鮮に拘束されていた米国人3人を連れ戻した。ここで日本人なら当然、日本人の北朝鮮拉致被害者は今後、どうなるのかという思いに至る。
政府、具体的情報を把握できず
さらに、中国に15年以降拘束され起訴されている日本人8人の安否も心配される。いずれも「スパイもしくは、その疑い。中国に損害を与える可能性」という理由での拘束だ。すでに一部は裁判にかけられているが、その詳細と実態について中国はまったく非公表で、皆目わからないのが現状だ。日本政府も外務省や日中団体などを通して手を尽くしているというが、進展なしだ。
この8人のなかには一昨年、北京の空港で突然身柄を拘束され、「国家の安全に危害を与えた疑い」で調べられていたS氏もいる。拘束されてから丸2年が経過し、昨年2月、中国政府から「逮捕」と正式に日本政府に報告があり裁判も行われたという。だが、どういう罪状で、どういう経緯なのかまったく不明だ。
S氏を知る人物は言う。
「拘束嫌疑は『国家の安全に危害を与えた疑い』で漠然としたまま。中国は14年11月に反スパイ法を施行し、外国人の中国国内での活動への監視を強めていたなかで、容疑をかけられたといわれるが、具体的内容は外務省も公安も警察庁も把握していない」