大相撲名古屋場所で、大横綱・白鵬が7場所ぶりの優勝を遂げた。しかも15戦全勝。通常なら拍手喝采となる復活劇だが、好角家からは「横綱にふさわしくない取組」との声も出ている。
そこで、好角家である筆者が、スポーツ紙で大相撲を取材している記者2人に質問をぶつけた。白鵬の「なりふりかまわず勝ちにいく姿勢」は、長年相撲を観ている人たちにどのように伝わったのだろうか(なお、スポーツ紙勤務の好角家2人に「本音」を聞くため、ここでは匿名とさせていただきました。相撲取材がしにくくなることを防ぐためです)。
白鵬が露呈した“自分優先”主義
――相撲を愛するファンとして、今場所の白鵬の相撲は「歴代の日本人横綱とは違うな」と感じましたが、佐藤さん(仮名)はいかがですか?
「私も、明らかに違うと感じました。これまでも、強い横綱は嫌われてきましたよね。たとえば、北の湖は倒した相手に手を貸さず、インタビューも不愛想でした。先代の大関・貴ノ花という存在がいたため、格好のヒール役でしたが、『自分が負けることで相撲ファンが喜ぶ、ひいては相撲界が盛り上がる』ことをわかっており、何が何でも勝つという意識は、白鵬ほどではなかったように感じます」
――相撲を観始めて半世紀の吉田さん(仮名)はどうです?
「この15日間、気分が悪かったよ。相撲とは、いい意味であやふやな世界なんだよ。スポーツであり、伝統芸能でもある。優先すべきは、とにかくファンを喜ばせること。それでなくても、コロナで世の中が苦しんでいるでしょ。ひとつの楽しみとして、自分が負けてファンが喜ぶなら……と考えるのも大事なんだ。しかし、白鵬にはそれがない。とにかく自分優先、自分主義だな」
――今場所は、いつにもまして張り手やエルボー(かちあげ)を多用していました。
「エルボーは、当たりどころが悪いと対戦相手は脳震盪を起こします。そこまでしないと勝てない、と白鵬も感じていたのでしょう。14日目の正代戦も、四つに組んだら分が悪いので、あんなに離れた仕切りをしたわけです」(佐藤さん)
「相撲は立ち合いが重要でね、横綱が相手より一瞬遅れて立つ=いわゆる“後の先”をして、初めて格下力士との力の差が縮まり、いい相撲になる。それが客を喜ばせる秘訣なんだ。負けそうで勝つ、というのが横綱の究極の姿でもあるんだが、白鵬はとにかく勝負にこだわった。逆に言えば、それだけ衰えているともいえる。まともに立ったら、照ノ富士には勝てないとわかっていたんだよ」(吉田さん)
――吉田さんは、白鵬とお付き合いがあるそうですね。
「顔見知りという程度だけどね。パーティ会場では、どんな人にもニコニコしているよ。そういう意味では頭がいいよね。とにかく自分優先。相撲界全体のことより自分だよ」(吉田さん)
「朝青龍もそうでしたが、モンゴル人力士にはそういう気質があるように感じますね。モンゴル出身初の関取である旭鷲山も、先輩力士なんか関係ないという人物でした。唯一、日本人に似ているのが鶴竜じゃないですか」(佐藤さん)