「発色剤を食べると、がんになる」「リン酸塩の入っている食品加工品は、口にすべきではない」という趣旨の週刊誌の記事や、「○○は危険」といタイトルの本が多く発売されています。
ハム加工品は、ハムの原料である豚の飼料がとれなくなる冬の前に、育てていた豚を絞めて加工品にし、冬の間の食料として食べていたものです。秋にとれた鮭を燻して保管する、秋にとれた大根や白菜を漬け物にする、といった知恵と共通する「保存食品」が、ハムやソーセージといえます。
食品を保存するためには、保存できる理屈が必要になります。代表的な保存食品の梅干しは、梅に対して20%の塩を使用することで、梅の中にある水分を外に出して、塩が入り込むことによって細菌やカビなどが繁殖しないように水分を減らしているのです。梅雨明けに、漬かった梅を干すことで、さらに水分を減らして保存できるようにしています。梅干しは塩分を加えることで、常温でも保存できる食品になっているのです。
しかし、「塩を摂りすぎると体に悪い」として、せっかくの塩分を洗い出して、味が薄まった分を化学調味料につけ込んで冷蔵庫でしか保存できないような、「減塩梅干し」が主流になってきました。梅干しは、室温で保存できてこそ、本来の梅干しだと思います。
豚肉を塩でつけ込み、岩塩の中に自然に含まれている亜硝酸塩、リン酸塩等の効果を利用し、燻煙して長期保存できるように加工したのが本来のハムです。
低温で燻煙し、寒冷地で長期保管し、自然に水分を飛ばしたものが生ハムです。ハムも生ハムも、塩漬け工程が必須になります。亜硝酸塩を使用することで、ハムらしいピンク色に発色し、ハム独特の風味が生まれます。リン酸塩を使用することで、焼き豚のようなぼそぼそした食感ではなく、しっとりした食感を味わうことができます。
岩塩に含まれている微量の効果を期待するより、塩、発色剤、リン酸塩と明確に使用したほうが、視覚、食感、味わい、風味ともおいしい加工品をつくりあげることができます。
添加物のなかでも発色剤は、使用量の上限が法律で定められています。人体に影響が出るほどの量はハム加工品に使用できないのです。発色剤、リン酸塩を使用していない豚肉加工品は、ハムではなく、煮豚、焼き豚だと私は思っています。大量に食べると身体に害が出るのは、水、塩、醤油といった一般的な食品も含め、どんな食品でも同じです。
ハム、ソーセージは、生肉を焼いたり、揚げたり、煮たりするよりも、豚肉の風味を味わうことができます。「発色剤、リン酸塩は身体に害がある」と信じている方は、ハム加工品を口にすべきではないでしょう。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)