その生徒は、その日の夜に緊急入院し、そのまま退部。野球も辞めてしまったという。
「センスのある選手だったと、今でも感じています。野球の楽しさと関係のないところで、せっかくの才能をつぶしてはいけない。また、『こんなことで体を壊すなんて間違っている』と感じたので、勉強しました。甲子園には出たいですが、たとえ出られなくても、野球が好きなままで卒業してくれるほうが私はうれしいですね」
同じ顧問でも、正反対の考え方である。もし、「自分の子どもをどちらかに預けなければならない」となったら、どちらを選ぶだろうか。
主催者側は「危険な現状」を認識すべき
今年の酷暑については、気象庁も「命にかかわる暑さ」「災害という認識がある」といった表現で最大限の警告を発しており、不要な外出や運動を控えるように呼びかけている。そんな状況で高校野球を開催することに関しては、医師たちも警鐘を鳴らしている。医師専用のコミュニティサイトを運営するメドピアが3000人の医師に意見を聞いた結果、トップは「特別な熱中症対策等の条件付きで開催すべき」(1763人/58.8%)で、「開催すべきでない」(478人/15.9%)が3番目に多かったという。
茨城西南医療センター病院附属八千代診療所の所長を務める加藤徹男医師は、「高校野球だけでなく、この夏に行われるイベント全般にいえる問題」と前置きした上で、こう続ける。
「『大会時期をずらす』『短時間で終了できるようなゲームルールに変更する』『甲子園のドーム化あるいはドーム球場への開催地変更』『ベンチ入りできるメンバーを現在の倍以上にし、かつひとりの選手が長時間プレーすることを禁じる』などが、現時点で思いつく対策です。いずれにしても、酷暑のなかで現行のスタイルで実施するのはかなり危険であるという認識を、主催者側が持つことが必要です」
大切なのは、高校球児たちはまだ10代で将来がある存在だということだ。すべてを「根性」や「感動」といった言葉だけで乗り切るのは無理があり、ましてやなんらかの事故が起きてからでは遅い。それにもかかわらず、抜本的な対策を取るような動きは見えない。「今大会さえ乗り切れば、来年もなんとかなるだろう」ということか。
「報道されていないだけで、地方大会や練習の現場では熱中症で重症になってしまい後遺症に悩む元選手や、不幸にして亡くなってしまった若者もいるかもしれません。そういったケースを取り上げたり、関係者の方々の声を拾い上げたりすることができれば、少しは反応も違ってくるかなと思います」(加藤医師)