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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

インターポール総裁、中国が身柄拘束で消息不明…習近平の「身柄拘束」体質強まる

文=相馬勝/ジャーナリスト
インターポール総裁、中国が身柄拘束で消息不明…習近平の「身柄拘束」体質強まるの画像1中国の警察犬、離任兵士に「敬礼」(写真:Imaginechina/アフロ)

「世界の警察のトップが消えるなんて、中国はなんて国だ」

 これは国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の孟宏偉総裁の消息不明に関して報じた香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」の書き込み欄に寄せられた読者の声だ。

 孟氏はフランスからファーストクラスで中国の北京国際空港に到着後、中国当局によって身柄を拘束。そのまま監獄に連行されて、24時間尋問され思考機能がマヒした結果、当局のシナリオに基づいて、あることないことを自白。中国国営の中央テレビ局のニュース番組で、罪の告白と謝罪を行い、その後の裁判ですべてを認めて、実刑判決を受けるという、これまでも繰り返されたパターンをたどることが容易に想像がつく。

 ICPOのユルゲン・ストック事務総長(ドイツ出身)は声明で、孟氏の失踪の事実を認めたうえで、「フランス、中国の当局者の問題」として、中国側が孟氏を拘束していることを示唆しているほどだ。
 
 しかし、中国共産党指導部は2年前の2016年、中国公安省次官を務めていた孟氏をICPO総裁として推薦しているのだが、その責任をどうとるつもりなのか。「孟氏は腐敗している人物なので、とてもではないがICPOのトップは務まりせん。だから、我々は孟氏を裁くために拘束しました。彼の罪行はいずれ我が国の裁判ではっきりとさせますから、待っていてください」。こう発表すれば、まだすっきりとするのだが、それもしないということは、中国は国際的な責任をとる気がないことを表しているといえよう。

 とはいえ、ICPOは国際的な警察機構であり、加盟している約190カ国・地域の警察機関はトップが母国で行方不明になるようなICPOを信頼できないのではないか。ましてや、そのトップを送り込んでおきながら、一言もコメントをしない中国共産党政権についても同様だろう。

 折しも、国際的な大女優で、米誌フォーブスの「世界で最も稼ぐ女優」ランキングでは約23億5000万円で4位(2015年)の中国人女優ファン・ビンビンさんが3カ月も消息不明のままだ。しかも最近、中国税務当局が脱税で彼女を拘束していた事実が明らかになるなど、中国では人間が突然消えてしまっても不思議ではない人権無視の暗黒大陸であることが露呈してしまった。そのあとだけに、「ICPO総裁でさえも、ファン・ビンビンと同じ目にあうのか」と中国共産党政権の非常識さに身も凍る思いだ。

 個人的なことだが、とくに筆者のように中国に批判的な記事ばかりを書いている人間としては、「もう中国大陸に足を踏み入れたくない」との思いが一層強まるばかりだ。そうは言っても、中国側は「あなたみたいな人が来ないのは、我々にとっては朗報だ」といわれそうだが。最近では香港でも実業家や出版関係者も知らないうちに大陸に連れ去られたり、「香港独立」を主張する政党関係者に理解を示した英紙「フィナンシャル・タイムズ」記者が香港滞在ビザの更新を拒否されるなど、「香港に行くのも命がけ」という印象が強くなってきている。

 すべては習近平氏が国家主席として中国の最高指導者に就任してから発生している変化だといってもよい。サウス紙の書き込み欄には「すべて中国の独裁者が企んでいること」との声が掲載されているが、まさに正鵠を射ているといえよう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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