渋谷ハロウィンでバカ騒ぎの翌朝、街を掃除する若者たち…指揮者が見る「日本人の美徳」
子供たちの大集団が、「トリック・オア・トリート」と叫びながら巡り歩いてきます。その一方で、「お菓子が足りるだろうか?」「最初は10人くらいと聞いていたのに、親戚の子まで集まってきているよ。もっと増えたらどうしよう」などと、子供のコスチュームが現実的に怖くなってくる親御さんもいるかもしれません。
ハロウィンの日、最近では、渋谷は夕方から歩行者天国になるようですが、日本人だけでなく世界中から訪れる観光客にもコスプレを楽しんでもらえるような一日になっています。そんな中、一部の若者が暴徒化したり、犯罪が増えている事も残念な事実です。深夜の騒音も近隣の住民の悩みとなっているようです。それならば、一層の事しっかりとイベントとして整備し、ブラジルで、宗教的なお祭りの謝肉祭が「リオのカーニバル」という世界的な祭りに発展したのと同じように、日本のハロウィーンもオリジナルとはまったく違う日本的な祭りとして育って、健全な形でドンドンと盛り上がればいいのではないでしょうか。いつか、三社祭や神田祭のように伝統文化となるかもしれません。文化とは、古いものを大切にするだけでなく、新しいことをつくり出す努力も必要だからです。
ちなみに、カトリックの国々ではハロウィンはあまり行われません。10月31日、つまりハロウィンの日は、まったく違う意味を持った大切な一日なのです。
僕が留学していたオーストリアは、カトリック国です。ある日、よく訪れる教会にふらっと入ったのですが、なぜか入り口の床が外されており、隠し階段が続いています。何か御開帳のようなものだろうかとワクワクしながら地下に入り、あたりを見渡すと暗いところにたくさんの棺桶が並んでいました。正直、ゾッとする瞬間で、急いで逃げ出そうと思いながらも横目で棺桶を見ると、小さなお花が供えてあります。10月31日は死者に祈りを捧げる日で、教会の墓所も開かれていたのです。翌11月1日は、カトリック教徒にとって大切な“諸聖人の日”です。さらに2日はすべての死者の魂に祈りを捧げる“万霊節”。いわば、この数日間は日本でいう「お盆」のようなものなのです。
ドイツの有名な作曲家、リシャルト・シュトラウスも、11月2日の万霊節を曲名とした素晴らしい歌曲をつくっています。万霊節に、亡き恋人への想いを語っている詩に曲を付けたのです。ピアノ伴奏が、まるでオーケストラのように響く魔法のような曲ですが、その曲調に悲しさはなく、万霊節に恋人に再会できるような喜びに溢れています。
ところで、「ハロウィン」の語源は「諸聖人の日の前日」という意味です。「All (すべての) Hallow’s(聖人たちの) Eve(前日)」という言葉がなまって「Halloween(ハロウィーン)」と呼ばれるようになったとの説が有力です。
最後に、なぜ先ほど渋谷のハロウィンを日本の祭りにすればいいと述べたかというと、どんちゃん騒ぎの翌朝、若者たちが渋谷の街をきれいに掃除していることが清々しく、素晴らしいからです。日本人の「良心と美徳」の精神がしっかりと守られていることに、僕は安心します。
(文=篠崎靖男/指揮者)