そこから、なぜ家族全員を殺害するのかと不思議に思われるかもしれないが、残された家族が「殺人犯の家族」として村の中で白い目で見られ、苦しみながら生きていくことを不憫に思った可能性が高い。とくに、この一家が暮らしていたのは、13世帯しかない山あいの小さな集落で、みんな顔見知りだったということなので、残された家族の苦悩がどれほど大きいかは想像に難くない。
家族大量殺人の多くは「拡大自殺」
客観的にみれば身勝手きわまりないが、家族大量殺人の犯人自身は家族のためと思い込んでいることが多い。典型的なのは、夫でもあり父でもある男性が「破滅的な喪失」に直面し、家族の行く末を思って落胆した結果、自分の命を絶つだけでなく、家族全員を不幸や苦悩から救うつもりで殺害してしまうケースである。なかには、自身の犯行は「愛他的殺人」だと思っている犯人もいる。
見逃せないのは、次男が犯行後自殺したことだ。今回の事件に限らず、家族大量殺人の犯人が犯行後自殺を図ることは珍しくない。また、もともと自殺願望があって、残された家族が可哀想という気持ちから全員道連れにしようとすることも少なくない。その結果、自殺が未遂に終われば犯人は逮捕されるが、既遂の場合は一家心中として扱われる。
いずれにせよ、家族大量殺人の多くは「拡大自殺」とみなされる。「もうダメだ」と絶望して自分が自殺するのに、家族全員を巻き添えにするわけである。しかも、家族全員を道連れにする傾向は、家族との一体感に比例して強まる。実に皮肉なものである。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
片田珠美『攻撃と殺人の精神分析』トランスビュー 2005年
片田珠美『拡大自殺―大量殺人・自爆テロ・無理心中』角川選書 2017年
Levin, J., Fox, J. A. : A Psycho-Social Analysis of Mass Murder. In O’Reilly-Fleming ed. : Serial & Mass Murder – Theory, Research and Policy. Canadian Scholars’Press. 1996