東京・港区が南青山に児童相談所を建設する予定を発表したことに、住民の一部が「南青山の価値が下がる」などの意見を持ち出し、反対していることが波紋を広げている。一方で、賛成派住民の中にもデマを流して、反対派の存在を封殺しようとする者もいるというのだ。南青山で何が起きているのか? そもそも青山とはどんな地域なのか? 同地域に知人も多く、アングラ事情にも精通する、元山口組系組長という異質の評論家・猫組長が考察する。
暴力団事務所もあるし
南青山に建設予定の児童相談所をめぐり、醜い争いが繰り広げられている。騒ぎが一気にクローズアップされたのは12月19日、情報番組『バイキング』(フジテレビ系)で、怒号が飛び交う住民説明会の様子が放送されてからだ。
反対する住民の中には、「南青山のブランドが崩れる」「南青山はランチが1600円する街」などと醜い発言を繰り返し、視聴者を呆れさせた。そして、インターネット上を中心に批判が沸き起こり、大炎上したのである。そこに、松島尚美が無知で無神経なコメントをしたものだから、火に油を注いだかたちとなった。
12月21日には、『とくダネ!』(フジテレビ系)で近隣住民100人に対する取材の様子を放映した。建設の賛否については、賛成73に対して反対が16、どちらでもないが11と、これだけを見れば良識的な数字であった。
だが、反対する地域住民からは「南青山の価値が下がる」などの勘違い発言が相次いだ。これを受けて、再びネット上では大炎上が巻き起こったのである。
児童相談所ができることで、南青山の価値が本当に下がるのだろうか? この場合の価値とは、主に土地価格を指している。一般的に、存在することで近隣の土地価格が下がる施設とは、火葬場や宗教施設、ごみ処理場、暴力団事務所など「嫌悪施設」と呼ばれるものだ。児童相談所は公益性の高い施設である。決して近隣の不動産価格を下げる施設ではない。南青山の価値を下げるのは、奇妙な反対意見を述べる地域住民にほかならないのだ。
また、港区は東京都の中でも児童虐待の通報や相談件数が異常に多い地域である。もちろん、青山も例外ではない。このことからも、児童相談所を南青山に建設するのは理にかなっている。
そもそも、私から見れば、南青山は「ブランド」と呼ばれるほどの土地ではない。暴力団事務所はあるし、組員もたくさん住んでいる。「半グレ」と呼ばれる不良や薬の売人も少なくない。地方から見れば、お洒落でセレブの住む街というイメージかもしれないが、都内をよく知る者なら、大した街でもなんでもないのだ。おそらく、児童相談所に反対している住民は、南青山に憧れを抱いて、他地域から転居してきたニューカマーたちだろう。私はこの問題に触れ、一部といえども住民にこんな考えを持たせてしまう南青山という場所が、つくづく嫌いになった。
「町会でも反対意見は多く、満場一致で賛成などあり得ない」
もちろん、反対する住民すべてが、テレビで取り上げられるような人ばかりでないことは承知している。また、どんな施設であれ、反対する近隣住民は必ずいる。これは当然であり、その意見はたとえ少数であっても無視してよいものではない。私には南青山に居を構える知人が8人いる。5丁目の建設予定地近隣には2人だ。この2人の意見は、「建設には反対だが、賛成意見が多数ならそれに従う」というものだ。
だが、反対に「青山ブランド」を守ろうとするために、良識ある反対派まで封殺しようとする“南青山住民”たちが現れた。彼らは、「町内会の人は満場一致で賛成であり、反対しているのは青山に住んでいない人」というデマを用いて、反対する人を葬ろうとしているのだ。
彼らのいう町内会とは、どこを指すのだろう。青山には11の町内会があり、建設予定地の5丁目は青山表参道町会になる。そこで私は事実確認のため、表参道町会に問い合わせてみた。その結果は「町会でも反対意見は多く、満場一致で賛成などあり得ない」という回答であった。当然である。5丁目に住んでいる私の知人も、反対意見を持っているのだ。
港区の行った住民説明会に参加した夫婦にも話を聞いた。すると、説明会は最初から建設ありきで開かれたものという印象を受けた。夫婦は2人の子どもを青南小学校へ通わせている。そのため、母子家庭の入所する母子生活支援施設が気がかりだという。
青南小学校は区立の人気校で、この学校へ子どもを通わせるために南青山へ越してくる家族も多い。我が子の通う学校に、問題を抱えた子どもが来るのではないかと、心配しているのだ。
気持ちはわからないでもないが、青南小学校は区立である。校区へ住む子どもなら誰でも受け入れなければならない。これらの懸念に対しては、港区がもう少し丁寧に説明して、住民の理解を得る努力が必要だろう。
住民説明会では、このあたりの質問を受け付けてくれなかったそうだ。いくら説明を求めようと無視され続けたと夫婦は言う。この夫婦と同じ青南小学校に子どもを通わせる住民の中には、同じように建設反対の人が多いそうだ。
それから、100億円という建設費に疑問を持ち、反対の立場をとる人もいる。児童相談所は、敷地約1000坪という広大な敷地に、4階建ての施設である。近隣住民から反対意見が出て当然だ。マンション建設であっても反対はあるくらいだから、それは仕方がないだろう。
だが、一部の勘違い甚だしい反対住民と、それを隠蔽するためにデマまで用いる住民には、不快感しか感じない。両者の考えは、真っ向から対立するのだが、その根底にあるものはまったく同じだ。「青山は特別な場所」という、妙な意識である。
この騒動のおかげで、南青山の歪(いびつ)さと、一部の居住者の醜悪さを知ることができた。こんな街で育てられる子どもの将来を心配してしまうのは杞憂だろうか。
(文=猫組長/評論家・元山口組系組長)