GPIFの総運用資産は6月末時点で121兆円、うち国内株式は16%、19兆円に及ぶ。基本ポートフォリオでは国内株式の運用割合は12%で、その上下6%が乖離許容幅とされている。安倍晋三政権のアベノミクスによる株価上昇で上限に近づいているのが現状だ。
基本ポートフォリオの見直しに伴い、国内株式の割合がどこまで引き上げられるのかは不明だが、「年内に東証と日本経済新聞社が策定する新指数が運用のメルクマールになる。この新指数はROE(自己資本利益率)と成長性、市場流動性をベースに、東証4市場(1部、2部、ジャスダック、マザーズ)から横断的に500銘柄が組み込まれる予定である」(大手証券幹部)との見方が強い。
このGPIFの運用見直しは、「株価に神経質になる安倍政権が、公的年金を使って株価を下支えさせるプライスキーピングであることは明らか。来年4月からの消費増税で景気がどこまで落ち込むのか心配でしょうがない安倍さんは、株価を是が非でも維持したいと思っている。GPIFはこのための道具にほかならない」(野党議員)という。
株価上昇でGPIFの運用実績が好転したことは事実。アベノミクスによる株価上昇を追い風にGPIFの2012年度の収益率は10.23%(11兆2222億円の黒字)と過去最高を更新し、運用資産額も120兆4653億円(13年3月末)まで膨れ上がっている。しかし、だからといってボラティリティ(価格の変動性)が高い株式のウェイトを高めることは危険な賭けでもある。
米国でも、こうしたリスクを勘案して「公的年金の運用は非市場性国債に限定されている」(峰崎直樹元財務副大臣)。毀損させてはならない資金である公的年金は、価格変動リスクの低い国債でがちがちに運用されているのである。
一方、日本の公的年金は、株式の運用ウェイトを高めるという。いわば公的年金を私的年金に転換するようなものだ。AIJ事件が示すように、運用に失敗した私的年金の解散が相次いでいる。GPIFは解散することはできない以上、損失は税金で補填される。アベノミクスを支えるツケが、いずれ国民に回ってくる可能性もある。
(文=森岡英樹/金融ジャーナリスト)