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藤和彦「日本と世界の先を読む」

米国、中国にバイオ技術を提供か、新型コロナ発生に関与の可能性…重要証言が注目

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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米ホワイトハウスのHPより

 12月8日、中国・武漢で新型コロナウイルスの最初の感染者が確認されてから3年が経過した。科学技術の急速な進歩のおかげで有効なワクチンや治療薬などが極めて短期間で開発されたものの、新型コロナの発生源はいまだに特定されていない。新型コロナに類似するSARSの発生源(ハクビシン)やMERSの発生源(ヒトコブラクダ)が早期に特定されたのにもかかわらずに、である。

 発生源については(1)武漢の市場で売られていた野生動物(自然宿主)から人に感染した説と(2)武漢ウイルス研究所から流出した説が有力だ。WHO(世界保健機関)は当初、(1)の見解を示していたが、懸命な調査にもかかわらず自然宿主が見つかっていない。「新型コロナが自然宿主から発生した確率は100万分の1未満だ」とする解析結果も出ており、WHOも(2)の見解に傾きかけている。

 発生源の解明は時間が経過すればするほど困難になるが、12月上旬、米国で注目すべき著書が出版された。著書のタイトルは「武漢の真実」、著者は武漢ウイルス研究所で共同研究を行った経験があるアンドリュー・ハフ氏だ。ハフ氏は武漢ウイルス研究所と関係が深い米NPO法人「エコヘルス・アライアンス」の副所長を務めていた最重要人物だ。ハフ氏は著書のなかで「セキュリテイー管理が杜撰な武漢ウイルス研究所で実施された機能獲得実験(感染力などを高める遺伝子組み換え実験)で誕生した新型コロナウイルスが外部に流出したことは間違いない」と述べている。

 だが、新型コロナのパンデミックは中国だけの責任ではない。ハフ氏は「米国が危険なバイオ技術を中国側に渡した責任がある。米国政府がこの事実を認めないことは『史上最悪の隠蔽』だ」と糾弾している。

 米ネットメディアの情報公開請求により、米国立衛生研究所(NIH)が多額の資金を出して、武漢ウイルス研究所でSARSウイルスの機能獲得実験を実施させていたことが明らかになっている。新型コロナの発生に米国政府が関与している可能性が浮上したことから、共和党は議会で真相の究明を再三求めているが、バイデン政権はこれまで協力する姿勢を見せていない。

 世界的に権威が高い英医学誌「ランセット」傘下の新型コロナの発生源究明に関する委員会も今年9月、「NIHは自らが支援した新型コロナに関連する研究内容の開示に消極的なため、新型コロナの発生に米国の研究所が関与した可能性は排除できない」との見解を示していた。ハフ氏の証言が得られたことで、これらの指摘が正しかったことが証明されたかたちだ。

機能獲得実験の脅威

 世界に脅威を及ぼすリスクを有する機能獲得実験だが、とどまるところを知らない。ボストン大学の研究チームは10月中旬、「パンデミック初期に流行した『武漢型』に『オミクロン型』のスパイクタンパク質(突起部分)を融合させた新たな変異型を作成した」とする論文を査読前論文のデータベースに公開した。研究チームによれば、新たな変異型の感染力はオミクロン型の5倍だ。オミクロン型で1匹も死ななかったマウスの集団に感染させたところ、その80%が死亡したという。

 感染力や致死率が高いとされる新型コロナの変異型が実験室で開発されたことについて、多くの研究者は「この研究は危険であり禁止すべきだ」と非難している。これに対し、ボストン大学は「感染させたマウスの集団は武漢型では100%死亡しており、新たな変異型の致死率はそれほど高くない。実験もバイオセーフティーレベルが高い施設で行われた。記事の内容は虚偽だ」と反論している。

 残念ながら、このような実験を行っているのはボストン大学だけではない。11月1日付英デイリー・メールは「英インペリアル・カレッジ・ロンドンで武漢型にオミクロン型やデルタ型のスパイクタンパク質を融合させる実験が行われた」と報じた。武漢型を生み出した中国でも同種の実験が行われている可能性は排除できない。

 世界の研究者たちが機能獲得実験に手を染めるのは理由がある。機能獲得実験は半年以内に成果が得られ、成功確率は100%に近い。このため、論文が書きやすく、研究予算の獲得も容易だからだ。機能獲得実験の目的はパンデミック予防や治療薬の開発などといわれているが、実際に役立った例は皆無に等しい。有害無益であることを承知で研究者たちが、自らの出世のために機能獲得実験に勤しんでいると思うと背筋が寒くなる。

 機能獲得実験は世界各地の研究所で実施されているが、その実態はブラックボックスのままだ。研究室で誕生した危険なウイルスが流出し、再びパンデミックが起きるのは時間の問題なのかもしれない。バイデン政権は新型コロナのパンデミックの経験を踏まえ、生物兵器防衛を強化する対策を策定した。政府機関間の調整をよりいっそう進めるとともに、昨年8月に新型コロナの発生源について明確な結論を出すことができなかった情報機関に対して、脅威への適応能力を高めることを求めている。米政府高官は「これにより、パンデミック防止能力は格段に向上する」と胸を張っているが、「絵に描いた餅」といわざるを得ない。次のパンデミック発生の最大のリスクと化した機能獲得実験にメスを入れない限り、効果的な対策を講じることはできないのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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