世間では「口頭での約束にすぎないから自由に許される」といったまことしやかな都市伝説がまかり通っているようですが、法律の世界ではこのような理屈は通用しません。
前記のとおり、「労働契約」であることには変わりありませんので、当然に労働契約法の適用を受けます。
そして、労働契約法16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されていますので、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない「内定取り消し(解雇)」は許されないということになります。
例えば、過去の裁判例には、「金融危機や原油高騰など複合的要因」を理由に「内定取り消し(解雇)」を行った企業側に対し損害賠償を命じる判決や、「性格が陰気である」ことを理由とする「内定取り消し(解雇)」を無効とした判決などが存在します。
要するに、「とってつけたような理由」や「面接の際に容易に知ることができたネガティブな理由」など「万人が納得するはずもない理由」では「内定取り消し(解雇)」は認めない、ということです。
これを、判例は難しい言葉で、「採用内定時点でその者の資質、性格、能力などが未知であり、判断要素が不十分であるため、その後の調査や観察に基づいて最終的な決定を留保する」という「解約権留保」の趣旨に鑑み、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すこと」が「客観的に合理性があり社会通念上相当性がある」場合にのみ、「内定取り消し(解雇)」を認めるとしています。
こう考えると、実際の「内定取り消し(解雇)」にはかなり高いハードルがあるようです。
もっとも、「内定取り消し(解雇)」の客観的合理性を少しでも高める方法がないわけでもありません。
一例を挙げるならば、「内定」の際、内定者側から内定取消事由を列挙した誓約書を徴収し、当該事由が発生した場合には、内定者側から「辞退」させるという方法もあります(但し、辞退の強要は別途の問題が生じ得ます)。
具体的には、
「(1)刑事処分を受けた場合、(2)内定時の能力を有していないことが判明した場合、(3)当社での就労に耐えない病気、事故が発生した時、(4)マスコミ等で名声を失する報道がなされた場合、(5)その他これらに匹敵する事由が発生した場合、内定を辞退させていただきます」という誓約書などが考えられます。
いずれにせよ、「内定取り消し(解雇)」はとてもセンシティブな問題であることには変わりありません。選考の面では選考担当者の「人を見る目」の経験と研鑽に期待し、かつ、法的な面では専門家の意見を聞きながら、「内定」と「取り消し」を慎重に検討することが肝要です。
(文=山岸純/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ・パートナー弁護士)
●弁護士法人アヴァンセリーガルグループ
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