9月19日午前9時半ごろ、東京駅近くの高層ビルの工事現場でおよそ15トンの鉄骨が落下し、5人が巻き込まれ、そのうち男性作業員2人が死亡した。事故を受け、警視庁は業務上過失致死傷の疑いを視野に捜査する方針を発表。
警視庁によると、事故直前に7階部分で長さ30メートルほど、およそ15トンの鉄骨の上で複数の男性作業員が作業をしていたという。鉄骨はクレーンのアームによって吊り上げられており、下から複数の鉄骨で支えられていたが、作業員ら合わせて5人20メートルほど下の3階部分に落下。
この事故を受け、建設現場で働く人たちからは、鉄骨が落下するという重大事故に対する疑念や、そもそも吊り上げられた鉄骨の上で作業をすることがあり得ないなど、ネット上でさまざまな声が噴出している。そこで、ゼネコン元社員に、事故に対する見解を聞いた。
――鉄骨が落ちることは珍しいと思いますが、落下することは想定されていないのでしょうか。
「クレーンによる揚重作業の際は、揚重物が落下することも想定した上で、慎重に作業を行います。しかし、揚重予定の重量に対して十分な強度のワイヤーなどを使用するため、揚重物が落下することはありえません。
落下する原因としては、以下のような可能性が考えられます。
・ワイヤーや吊具の劣化
・玉掛不良
・鉄骨吊りピースの強度不足による破断
(※吊りピース:鉄骨にワイヤーを引っかけるために付けられた穴の開いた板)
また、揚重物が落下した場合に備え、吊り荷直下は立入禁止ルールが定められています。
さらに揚重する際は、玉掛者(資材にワイヤーを引っかける人)がホイッスルを鳴らし、現場で作業している人はホイッスルが鳴ったら頭上を見上げて揚重物を確認し、危険が無いか確認をします」
――過去に吊り上げた鉄骨等が落下する事故は、記憶にありますか。
「6年前に大阪で、石膏ボードが落下して直下の人が下敷きになる死亡事故がありました。原因は、ボードを吊る際にワイヤーが掛かりきっておらず、さらに吊り荷の直下に(被害者が)いたからだと記憶しております」
――工事の際、落下対策はどのような感じでされているのでしょうか。
「吊り荷重量に対してワイヤー等十分な強度が確保されている前提で、
・揚重作業前にワイヤーなど吊り治具の点検を行う
・吊り荷直下に立ち入らない
・玉掛333運動
などの対策を行います。ただし、重量に対してワイヤーの強度計算などを行う前提です」
――吊り上げた鉄骨に作業員が乗ることは、作業工程であり得るのでしょうか。
「原則、あり得ません。鉄骨取付の流れとして、
(1)地上で鉄骨を吊る
(2)吊り上げられた鉄骨を、設置箇所まで揚重
(3)設置箇所で待機している作業員が鉄骨を固定する。その際、鉄骨をボルトで固定するまで吊られた鉄骨に乗ることはない
(4)ボルトで固定された後、クレーンのフックを鉄骨から外す
(5)その後、初めて鉄骨に乗る
という流れです。
作業の流れで一瞬、足を掛けたりする場合があるかもしれませんが、乗ることは無いはずです」
――そのような場合、命綱はどこにつなげるべきなのでしょうか。
「すでに設置されている鉄骨に親綱と呼ばれるロープが張ってあり、そこに安全帯(命綱)を付けて作業を行います」
――NHKをはじめとする複数のニュースで「吊り上げた鉄骨の上で作業していた」と報じており、さらに一部では、吊り上げた鉄骨の上に作業員が乗っている様子をCGを添えて事故を報じていたが、建設現場を知る人たちからは、「フェイクニュースだ」などと報じ方を批判する声も上がっています。
「確かに、指摘の通りだと思います。画像では取付前の吊られた鉄骨の上に5人乗っているため、ありえないでしょう。複数のニュースから状況を予測すると、
・7階の鉄骨取付作業を行っていた
・クレーンに吊られた鉄骨が7階より上空で落下
・落下した鉄骨が7階のすでに取付けが完了した鉄骨に接触。その時、7階の鉄骨の上で作業員5名が作業していた
・落下した鉄骨の衝撃により7階の取付済みの鉄骨4本が外れ、上に乗っていた作業員5人が鉄骨とともに3階まで落下
こういった状況かと思います。ですので、クレーンで吊られた鉄骨に5人乗っていたわけではなく、すでにその日に取付が完了した鉄骨の上で作業員5名が作業していたのだと思います。
そうであれば、作業員5名は取付済みの鉄骨の上に乗って作業していただけなので、安全上問題なかったといえます。
・鉄骨吊ピースの強度不足による破断
・ワイヤーなどがそもそもの強度不足
・ワイヤーなどが劣化していたため強度が落ちていた
・適切な玉掛をしていなかったために外れた
憶測になってしまいますが、おそらく上記4つのうちどれかが原因ではないでしょうか」
鉄骨が落下した原因は究明中とのことだが、一刻も早く原因が判明され、再発防止策が確立されることを望む限りである。
(文=Business Journal編集部)