4月8日、医師免許がない従業員に「光脱毛」行為をさせたとして、兵庫県警姫路署などは姫路市内のエステ店経営者らを逮捕しました。
これまでにも、脱毛エステなどの美容系サロンで「やけどを負った」「皮膚を傷つけられた」といった苦情から発展した刑事事件が多数ありました。そのたびに問題とされるのが医師法17条違反の点です。そこで今回は、そもそも医師法17条とはどのようなものなのか、さらに「光脱毛」はどこまでが適法でどこから違法と判断されるのかについて解説したいと思います。
まず、医師法17条とは「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。しかし、では医師しか行ってはならない「医業」とはなんでしょうか。
2005年7月26日付の厚生労働省医政局長通達によれば、「行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと」と解釈していますが、これでもまだよくわかりません。
そこで、個別具体的に考えていかなければならないのですが、医療に関係する行為でも、体温測定や血圧測定、点眼、湿布のはり付け、軟膏塗布、座薬挿入といった行為、さらに「光脱毛」に関することでいえば、「抜毛」は医行為ではないとされています。
他方、「レーザー脱毛」や刺青を入れる行為、薬剤を皮膚の表面に塗布し新陳代謝の悪くなった角質を剥がす行為(ケミカルピーリング)などは、医師法17条で禁止される「医行為」とされています。
結局、どういった行為が医師法17条違反になるかは、その都度、個別具体的に検討しなければならないということになってしまい、行為が適法か違法かを判断する基準があやふやになってしまっているのが現状です(国民の行動規範である法律の性質としても問題が生じてしまいます)。
行政のガイドラインや業界団体の策定基準
そこで、これまで厚生労働省や経済産業省、各種業界団体などがさまざまなガイドラインを策定し、なんとか「適法か違法か」を事前に判断できるよう試みてきました。
例えば、今から2年前の12年5月22日に今回と同じような事件が発生した際、「日本エステティック振興協議会」は、業界団体や加盟店などへ向けて、以下のような「基準」を設定していることを明らかにしています。
【要約】
「光脱毛については、厚生労働省医政局医事課課長通知(医政医発第105号)が、『レーザー光線などを毛根部分に照射し、毛乳頭などを破壊する行為は医師法17条に違反する』としている。そこで協議会はこの通知と02年3月に経済産業省サービス産業課(当時)が発表した『エステティック事業における適正な施術の在り方について』や、東京都が発表した『エステティックサロンにおけるレーザー等を利用した脱毛機の安全性について』などを踏まえて、(1)(医療の光脱毛では区別された)除毛、減毛の範囲とすること、(2)日本エステティック工業会が実施している美容ライト脱毛機器適合審査に適合していること、(3)エステティックの基礎と美容ライト脱毛の知識・技術を習得した技術者が施術すること、という基準を設定しています」
このように、法律の基準があいまいな状況なので、行政のガイドラインや業界団体が策定する基準に頼らざるを得ないところですが、少なくともこれらは法律や法律の公式な解釈より「厳格な基準」を設定しているようですので、エステティックサロンとすれば、最低限これらを遵守していれば法律違反を問われることは防げそうです。
そして、脱毛エステを求める利用者からすれば、自分が利用する店が依拠している基準(もちろん、ある程度オーソライズされたものであることが必要です)がウェブサイトや広告、店頭などに明示してあり、実際に当該基準にしたがった施術がなされているかどうかを確認する必要があるといえます。
(文=山岸純/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ・執行役員・弁護士)