新しい運用委員長には米沢康博・早稲田大大学院教授が決まった。米沢氏は政府の有識者会議の座長代理であり、「企業の株式で重点的に運用すれば、より高い運用成果が期待できる」と発言するなど、官邸の意をくんで動く人物といわれており、国内株式の投資割合を増やすことになりそうだ。
そもそもGPIFの「運用先を債券から株式へ」という方針転換は伊藤隆敏・政策研究大学院大学教授が座長を務めた有識者会議が、13年11月にまとめた提言によるもので、提言ではアクティブ運用を高めるよう求めていた。
今回、株価の動きに敏感な官邸サイドの強い意向により、運用委員会のメンバーが入れ替えられたとの見方がもっぱらであり、4月21日までに委員10人のうち9人の任期が切れたが、委員長の植田和男・東京大大学院教授ら8人は再任されず、新たに米沢氏ら6人が任命された。この結果、委員は8人となり、新任の6人のうち3人は有識者会議のメンバーだった。
運用委員会の仕事は、GPIFの保有資産のポートフォリオ(構成比率)を審議して運用を監視することだ。サラリーマンが加入する厚生年金や、自営業者が入っている国民年金には巨額の資金が積み立てられており、年金の給付に充てられている。しかし、まだ使われずに残っている積立金を運用して増やすことができれば、年金財政にプラスになる。GPIFは厚生労働省から資産を預かり、株式や債券などで運用している。
そのGPIFが日本株運用委託先もドラスティックに変更した。アクティブ運用先14社のうち10社が外資系になった。新しく選ばれたのは英イーストスプリング・インベストメンツや米ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどで、国内系の三菱UFJ信託銀行や、りそな銀行、大和住銀投信投資顧問などは選ばれなかった。運用会社1社当たりがGPIFから受け取る手数料は年間数億円だが、世界一の規模を誇る年金基金の運用先になれるかなれないかというのは、金融機関の経営を大きく左右する。
日本取引所グループの斉藤惇・最高経営責任者(CEO)は4月28日の定例記者会見で、GPIFの資産運用について「海外の年金基金と同様に、さまざまな資産に分散すべきだ」と述べた。株式市場にはGPIFが動けば、海外投資家が連動して動き、株価が上がるという期待が強い。
GPIFは厚生年金と国民年金の積立金129兆円を運用している。その規模は米国最大の公的年金基金、カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)のおよそ5倍、韓国の国民年金基金の4倍以上だ。13年12月末時点の運用資産の割合は、国内債券が55%、国内株式17%、外国株式15%などとなっている。カルパースは24兆円に上る資産の60%以上を株式で運用している。カルパースに比べてGPIFの株式での運用比率は確かに低い。株式の比重を高めて、12年度までの5年間平均で2.5%という現在の投資収益を高めるべきだ、という声が出ているのはこのためだ。