輸送を担当するボランティア・スタッフに、記事について感想を聞くと、「大げさなんだよ。メディアが大げさなのは、君自身がよくわかってるだろ?」と肩をポンと叩かれてしまった。
いつものロンドンの表情を知らないので即断はできないが、たしかに中心部では地下鉄やお店も空いている。記事によれば、中心部コベントガーデンの「ポーターズ」というレストランは、11年の7月27日におよそ4000ポンドの売り上げがあったが、1年後の同じ日の売り上げはわずかに1600ポンド。実に60%の落ち込みだ。
そのかわり、オリンピックのメイン会場となっているロンドン東側のストラットフォードは、新しいショッピングモールも併設されて、大繁盛。地下鉄なども東京並みの満員電車だ。
町のにぎわいが東側に移動しているのだが、ロンドン総体で見ると、海外からの観光客の数は減っているという。インディペンデント紙によれば、毎年、この夏の時期には海外から30万人の観光客が訪れるというが、オリンピックを目当てに訪れる人は10万人。観光市場が大幅に細っている。オリンピックは景気を上向かせる魔法の杖とはならなかった。
ただし、各会場の雰囲気は素晴らしい。卓球、柔道会場はほぼ満員。キャパシティが小さいこともあるが、試合の流れに一喜一憂し、観客が試合と一緒に呼吸しているのが伝わってくる。これは北京大会ではなかなか見られなかったものだ。
スポーツに対する理解度が高いのだと思う。
それでも人気競技に空席が目立つのは、チケットの価格設定に問題があったのではないか。陸上はまだチケットが余っているというニュースが流れているし、競泳の決勝でさえ、空席があった。競泳はもっとも高い席が日本円にして5万円を超えており、とても気軽に手を出せる値段ではない。
観客席に学生の姿が少ないのも、少しだけ気になる。その昔、1964年の東京オリンピックの時には、東京近郊では学校単位で競技を見学しにいったという話も聞く。いま、50代、60代の人たちにスポーツファンが多いのも、そうした記憶があるから、と思ったりもする。