今年春の賃上げ効果を示す数字が相次いで発表されている。経団連が公表した東証1部上場109社の賃上げ額は7370円。15年ぶりとなる前年比2.28%の賃上げ率だった。また、厚生労働省の5月の毎月勤労統計(速報、従業員5人以上の事業所)では基本給が前年同月比0.2%増と2年2カ月ぶりに増えた。
といっても、大企業の賃上げ率に比べて一般労働者全体ではわずかしか上がっていないのが実態だ。しかも5月の消費者物価指数は消費税増税による影響もあり、前年同月に比べて3.4%上昇。物価変動の影響を加味した実質賃金指数は3.6%も下落している。
また、今夏ボーナスの平均手取額は72万2000円と前年同期に比べ2万3000円増となり、6年ぶりに増えたという(損保ジャパンDIY生命保険調べ)。一見すると、月給が増えたからボーナスも上がるのは当然と思えるかもしれないが、月給とボーナスは必ずしも連動していない。
●会社に“うまみ”のある仕組み
実は2000年前後に多くの企業が導入した成果主義によって、月給とボーナスの決め方が分断された。月給は多少の年功的要素を残した安定的な給与にする一方、ボーナスは個人業績と会社業績や部門業績で変動する仕組みに変えたのだ。もちろん会社業績や個人業績が上がればボーナスも増えるが、それ以上に会社側にとっては“うまみ”がある仕組みになっている。
電機メーカーの人事課長は、そのカラクリをこう説明する。
「以前は業績に関係なくボーナスは給与の何カ月分という固定額を支給していましたが、今では会社の業績がよければ自動的に上がり、悪ければ自動的に下がる仕組みです。つまり、固定費から変動費に変えたことで会社の懐は痛みません。個人業績分も加味されるが、会社や部門の業績が悪いのに高いパフォーマンスを出す社員はほとんどいないでしょう」
さらに、懐が痛まないどころかボーナスの総額を減らすことも行っていると明かすのは、小売業の人事部長だ。
「賃金制度改定の目的は成果連動型制度の導入と、総額人件費を2割減らすことにありました。制度設計にあたっては、過去10年間の賞与支給額の平均を出し、それよりも2割程度低い総額をベースに賞与の計算式をつくったのです。当時は労働組合もさすがに気がつかなかったし、社長に褒められました」
会社業績連動型賞与の算定根拠を複雑化することで、賞与総額を抑制した企業は少なくない。経営側は2000年初頭の春闘を契機に「企業業績の向上分は賃金ではなく賞与に反映する」と主張してきた。経営側の本音は「月給を上げると固定費が増加し、財務体質の悪化を招く。それよりも会社の業績で変動する賞与に反映したほうが得だ」ということだ。
今年は円安効果で好業績を上げ、安倍政権の要請で賃上げに踏み切る企業が増えたが、来年以降も月給が上がる保証はないのだ。