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相次ぐ賃上げ、なぜ年収は増えない?人件費を削減する給与制度改革・成果報酬制のカラクリ

文=溝上憲文/労働ジャーナリスト
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●「職務・役割給」制度のメリット

 そしてもうひとつ、給与制度の変革によって月給も全員が上がる仕組みになっていないのだ。「昇給なし」と「降格制度」によって給与の総原資も会社によって調整されている。

 現在、大企業の約7割が管理職を中心に「職務・役割給」制度を導入している。簡単にいえば、従来の賃金の決め方が「人」の潜在的能力を基準に決定していたのに対し、「仕事の中身」を基準にするものだ。

 年齢や能力に関係なく、本人が従事している職務や役割に着目し、同一の役割であれば給与も同じ。つまり、ポスト(椅子)で給与が決定し、ポストが変われば給与も変わるという欧米型に近い給与だ。ただし、給与が減るのはかわいそうということで、給与の一定割合に年齢・勤続給的な年功部分を残している企業も少なくない。

 この役割給制度のメリットは昇格・降格がやりやすくなり、若くても優秀な人材を抜擢できる一方、役割を果たせない無能な管理職を降格できることだ。電機メーカーの人事課長はこう説明する。

「S、A、B、C、Dの5段階の人事評価ランクのうち、2年連続でC評価を受けるとイエローカードを発行します。さらに3年目も同じ評価ないしD評価を受けると、役割に見合った能力を発揮していないということで、1ランク下に降格させるのです。過去には2ランク下に落ちた課長もいます」

●月給も変動費化

 また、大手通信会社の人事部長は「役割変更というかたちでの“入れ替え戦”はしょっちゅうやっています。例えば部長が10人いれば、3人上げたいので3人を降ろす。管理職全体では毎年700人が昇格し、500人を降格させています。もちろん、降格しても“敗者復活”は可能だが、いったん落ちるとなかなか浮上するのは難しいでしょう」と指摘する。

 降格すれば本来なら肩書も変わるのだが、世間体もあり「部付き部長」「担当課長」という名称を与えている会社も多くある。降格しても給与の減額幅が少ないと我慢もできるが、役割給も大幅に減り、給与自体も下がる。

 月給を役割給1本で決めている精密機器企業の人事部長は「降格により部長職の役割グレード(等級)が1ランク下がれば月給が20万円減額される。しかもそれがボーナスの基礎給になるので、年収ベースで400万円ぐらい下がる」と明かす。年功給を残している企業の社員は多少救われるが、最近では月給に占める年功給割合を下げたり、廃止する企業も徐々に増えている。

 この制度によって若くして昇進し、給与が増えていく人がいる一方、降格されて大幅にダウンする人もいる。つまり、増え続ける固定費の月給を変動費化することによって会社の懐は痛まないことになる。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)

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