朝日は05年のこの報道をめぐり、決定的証拠を出さなかったが、その証拠とは、安倍晋三首相、中川昭一元財務相へのインタビュー取材の録音だった。朝日には「取材にあたって録音の許諾がない限り録音はしない」との内規があったため、その証拠を出せなかった。
改竄されたとされる『ETV2000』放送時の01年も、朝日が報じた05年も、安倍氏と中川氏は政権政党自民党の中枢にいた。その両氏をはじめ国会議員たちに向け、NHKの予算審議を前にNHK幹部が事前説明を行うことが通例となっていた。その際に話題となっている番組、放送されていない番組を含めて、NHK側が説明することもよくあったことから、朝日が両氏を通じて改竄疑惑を突きとめるに至ったのではないかとの見方もあった。
NHKは疑惑が持ち上がった当時、「番組の(国会議員への)事前説明は通常業務」との姿勢を明確に示した。放送前の特定番組に関してNHK幹部が説明を行い、国会議員が密室で説明を受け、意見を述べる状況は不健康きわまりないことだが、NHK側は「通常業務」との認識を示した。本来は受信料を支払っている市民視聴者にまずもって説明があるのが通常業務であることはいうまでもない。
中川氏と安倍氏は、事前に番組を見て「公正中立な立場でするべきだ」と圧力をかけたと朝日に報じられたが、中川氏は、NHK関係者に会ったのは当該番組の放送後であり「事前のやりとりはない」と表明。安倍氏も「政治的圧力をかけたこととは違う」と政治介入を否定した。放送されていない編集段階の番組について国会議員が口を挟むという行為により、その番組が政治的立場を色濃く反映したものになってしまうのは当然である。
その後、この朝日報道は「政治家によるNHK番組への介入」から「NHK対朝日」、あるいは「政治部対社会部」というメディア内の泥仕合の様相を呈し、論点のすりかえが展開されてしまった。
●デモに冷淡なメディア
以上みてきたように、NHKと政権の密接な関係、もしくはNHKの政権寄りの姿勢について、次のような調査がある。
12年度に筆者が担当するゼミ生(立教大学社会学部メディア社会学科3年生)10人は「脱原発デモ報道検証 平成デモクラシー―官邸前から変える日本社会―」という調査・分析結果をまとめた。
デモといえば、8月末、自民党がヘイトスピーチを規制する法案策定するとともに、国会周辺でのデモ活動規制強化を検討しはじめたことが明らかになった。東京電力福島第一原子力発電所事故による放射能汚染や、秘密保護法策定、集団的自衛権をめぐる閣議決定など、政府の不十分な説明や国会審議に対し、市民の強い抗議活動が続いた。しかし、メディアの報道は、国会や首相官邸前でのデモ・抗議活動に対し全体的に冷淡であった。