このケイフローリストに、一つの疑惑が浮上している。ホームページ(HP)上で取引先企業として海自を掲げているが、実際には海自と取引実績がないのではないかという点だ。
●ケイフローリスト社長と海幕広報室員の酒席写真
事の発端は、Facebook上にアップされた1枚の写真だった。
栗原社長と海幕広報室員(当時)のA氏が共に一枚の写真に収まっている。栗原社長とA氏は、共に旧海自少年術科学校の同窓生だ。
ある現役海自幹部は、「詳細を調査したわけではない」と前置きした上で、「ケイフローリストは、海幕広報室と取引関係にあると聞いたことがある」と明かした。
もし、ケイフローリストと海自との取引関係が事実なら、たとえ海自OB同士といえども「海自と取引関係にある」と称する民間企業経営者と海幕広報室員が酒席を共にしたことになり、その費用負担によっては自衛官倫理規定にも抵触することになる。また、仮に同規定に抵触しなくとも、納税者である国民に無用の誤解を招くこととして、「発覚すれば後で厳重指導などの措置がなされる」(前出・海自幹部)という。
さらに同海自幹部は、「海自に限らず、陸・空の各自衛隊や防衛省でも同様に、たとえ相手が防衛省・自衛隊のOBであっても、民間企業経営者と酒席を囲む際には自衛官倫理規定に基づいて気をつけて参加する。参加した場合には、写真など絶対に撮らせない」と語る。
これらの話を踏まえると、栗原社長とA氏が酒席を囲んだ後と見られる写真は、自衛隊にとって「好ましからざるもの」ではないだろうか。
●防衛省は取引関係を否定
そこで、ケイフローリストと海自の関係を調査するため、防衛省に同社との取引実態・契約書類の有無について情報公開請求した。
結果は、防衛省が海上幕僚監部および全国各部隊を約2カ月にわたって調査したが、その存在は確認できなかったという。海幕広報室主導で海自全部隊にも調査を行ったが、結果は防衛省同様「ケイフローリストと取引・契約関係にない」だった。
この結果、栗原社長と酒席を共にしたA氏の行為は、自衛官倫理規定に抵触していないことが確認されたわけだが、別の疑惑も浮上している。
ある現役海自下士官から筆者に「隊員の中に、ケイフローリストが販売する花を買うよう職場や隊員に勧めていた者がいる」との情報提供があったのだ。現役隊員が特定企業の利益に供することは、公務員として問題がある。もちろん自衛官倫理規定にも抵触する行為である。この点についても取材を進めてみたが、実際に購入した人がいるのかは確認できなかった。前出の海自幹部も「現役隊員が、たとえOBの企業といえども特定企業の便宜を図るようなことがあってはならない。従って、徹底して調べ上げたが、該当する人物はわからなかった」と語る。
●ケイフローリスト「応える義務なし」
以上のとおり、防衛省および海自から明確に「取引・契約関係にない」と否定され、海自隊員個人との取引も確認できなかったわけだが、なぜケイフローリスト側は取引先として海自の名前を掲げているのであろうか?
そこで、同社へ問い合わせてみたところ、「この件についてはケイフローリストの顧問弁護士に連絡を取るように」と告げられたため、指定された弁護士に連絡を取ったが、「取材に応える義務はない」との回答であった。
なお、海幕広報室によると、実際に海自と取引・契約関係にない企業が自社HPに海自を取引先企業として掲げていても、「防衛省、海自ともに、企業側を指導することはできない」という。消費者庁にも問い合わせたが、「取引実態のない企業をあたかも取引があるように掲載していても、その一事をもって違法ということはできない」との回答であった。よって、現状ではケイフローリストの企業倫理に委ねるしかないが、著名企業だけにその広告・告知には信頼性が求められることはいうまでもない。
(文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)