地元記者はその当時のことを振り返り、次のように語る。
「知らせを聞いた時は驚きました。ただ、12区は前回選挙で山口氏に敗れた自民党候補が支部長を降ろされ空席になっていたので、自民党に入るつもりだと聞いて納得がいきました。最近も山口氏は『俺は自民党に入る。選挙が終わればわかる』と自信満々に話していました」
しかし地元では「離党発表よりはるか昔から、自民党入りを目指していた」という噂もささやかれている。
●裏取引のうわさ
自民党関係者は「山口氏を自民党に引き入れるきっかけをつくったのは、地元の県会議員です」と断言する。
「2011年の統一地方選挙で、県議会議員選挙に山口氏の秘書を出馬させようという話がありました。競合する選挙区の議員はなんとか無投票に持ち込もうと、『山口氏の自民党への入党について地元議員として支援する』と約束し、秘書の出馬を取りやめさせる取引をしたようです。ただ、約束をした議員が亡くなってしまったり、議員を辞めてしまったことで、約束が果たされなかったのです。これは山口氏にとって誤算だったでしょうが、その話を聞きつけた二階氏が首を突っ込み、今に至っています」
ちなみに、選挙が無投票となるメリットは候補者にとって計り知れない。ある現役ベテラン議員は次のように明かす。
「地方選挙でも国政選挙でも、使える金額も使途も公職選挙法で縛られない公示・告示前にどれだけの金を使って活動してきたかで勝負が決まります。ある程度前から無投票の公算が高まっていれば、少なくとも数百万円単位で活動費を節約できます」
別の元兵庫県議員も異口同音に語る。
「兵庫県は“号泣県議”のために政務活動費が問題になったが、彼のようなキワモノは別として、我々政治家がカネを集めるのは1にも2にも選挙のためです。県議クラスなら選挙区にもよりますが、表と裏のカネを合わせて1000万円程度は用意しておきたいところです。しかし、無投票なら、そのカネを使わずに済むのです。調整できる可能性があれば、必死になるのは当然のことです」
●大荒れの公認問題、代議士会では怒号の応酬も
前述の自民党関係者は「山口氏にとって第二の誤算は、戸井田氏が出てきたことでしょう」と続ける。戸井田氏の父親は、元総務大臣の鳩山邦夫氏の側近だった徹氏。体調不良などから政界引退したものの、今回の公認問題では鳩山氏などを通じて党本部に働きかけていたという。
「戸井田氏本人は県内の代議士秘書をやっていただけで、政治的に実績はないが『戸井田家の後継者』という看板は持っています。県連からの推薦を受けて公認問題を話し合った代議士会では、戸井田氏を推す鳩山氏とその盟友の麻生太郎副総理、山口氏を推す二階氏の怒号が飛び交う大騒動になったというもっぱらの噂です」(前述・自民党関係者)
麻生副総理や鳩山氏といった党内タカ派とハト派の二階氏の争い、という見方もあるという。
「徹氏は南京大虐殺問題などで保守的な主張を繰り広げ、女系天皇を認めるか否かの議論でも強硬に反対しました。一方、二階氏は中国やアジアとの関係性を非常に重視する人です。実は山口氏もかねてから『アジア共同体構想』を主張するなど、どちらかというと二階氏と考えは近いので、それがタカ派の人たちにとっては面白くないのでしょう」(同)
●無所属同士の戦いは?
結果的に戸井田氏も山口氏も自民党から公認を受けられず、共に無所属で選挙戦に臨むことになった。
戸井田氏は県連が物心両面でサポートするが、“山口党”を切り崩すことは難しく、多くの地元市民も「山口さんは知っているけれど、戸井田さんは知らない」「お父さんのイメージは湧くけれど、息子はどんな人間なのかわからない」と話す。
山口氏優位は揺るがない情勢だが、地元記者は、今後の選挙戦は興味深いという。
「戸井田氏側には、徹氏に近い保守派の大物が応援に来るかもしれませんし、山口氏側も自民党との親密さをアピールするために、二階氏に近い人物が兵庫入りするかもしれません。普段あまり話題になることのない選挙区ですが、誰が応援に来てどんなことを話すのかという点で面白い選挙戦になりそうです」
兵庫12区は目が離せない選挙戦になりそうだ。
(文=編集部)