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富家孝「危ない医療」

手術の下手な医師蔓延で、多くの患者が死亡という現実…医師だけ特別扱いは許されない

文=富家孝/医師、イー・ドクター代表取締役
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手術の下手な医師蔓延で、多くの患者が死亡という現実…医師だけ特別扱いは許されないの画像1「医療事故調査制度について」(厚生労働省HPより)

 この10月から「医療事故調査制度」がスタートした。これは、たび重なる医療過誤事件の原因究明と再発防止を目的としたもの。この制度によって、第三者機関「医療事故調査・支援センター」が設立され、医療機関は患者の死亡事故が発生した場合はセンターに届け出て、自ら院内調査を行う。その調査結果は遺族に開示され、遺族が納得できないときはセンターに再調査を依頼できるようになった。

 こうした第三者機関の設立は、医療過誤事件の被害者となった患者側にとっても、医療機関側にとっても一見すると「大きな前進」のようにみえるが、実情はとても「前進」とはいえない。

 なぜなら、制度スタートから1カ月あまり経った11月13日、センターを運営する日本医療安全調査機構が発表した事故は全国でたった20件にすぎなかったからだ。センターでは年間1000~2000件を想定していたので、まさに想定外なのである。

 また、寄せられた相談は250件で、その相談内容の4分の1は医療事故として届け出る必要があるかどうかというもので、事故そのものではなかった。

 こんな状況だから、現場の医者の関心・反応は本当に鈍い。私が聞きおよんだところでは、医師会や日本医療法人協会などがシンポジウムや説明会などを活発化させているにもかかわらず、「新制度は機能しない」と言う医者が多い。医者の関心は、事故を起こしてしまったとき、どう責任を取らされるかだが、新制度になってもこの点はまったく曖昧なままだからだ。

新制度の致命的欠陥

 医療は人間が人間に対して行う以上、事故は必ず起こる。それが、過誤(ミス)によるものかどうかを判定するのは、本当に難しい。当事者である医者側が口を閉じてしまえば、ほとんどが隠蔽されてしまう。

 そのため、第三者機関が必要なのだが、新制度ではその調査はまず院内で行われる。また、調査の対象になるのは「予期せぬ死亡事故」に限定されている。治療中などに死亡する危険性を患者に事前に説明していたり、カルテに記載していたりすれば、対象から除外することも可能で、その判断は医療機関に委ねられている。さらに、院内調査の報告書を遺族に提供するかどうかについても、任意とされた。

 結局、第三者機関による調査が行われるのは、院内調査の結果に納得できない遺族からの求めがあったときだけ。しかも、医療事故1件の院内調査には数十万円から100万円かかり、その調査費用は医療機関側が負担することになっている。

 これで、医療事故が本当に解明されるだろうか。

医者だけが例外は許されるべきではない

 じつは、新制度発足に当たって、被害者団体は遺族などが相談できる窓口をセンターに設置することを求めていたが、退けられてしまったのである。

 私は息子が医療事故に遭ったため、医者を訴える裁判を経験している。この裁判は医者が医者を訴える、しかも私は母校の医者を訴えたので、マスコミで大きく取り上げられた。

 しかし、残念ながら民事でも刑事でも敗訴した。その根底には「医療は本来不確実なもの。いくら過誤があっても刑事免責されるべきだ」という考え方があった。しかし、これは交通事故などで業務上過失致死罪が成立するのに比べたら、医者だけが例外にされていることになる。

 医療事故の多くはミスから起こるが、外科手術では手術が下手、あるいは未熟な医師が行い、死ななくてもいい患者が死亡してしまうことがある。去年、群馬大学病院で腹腔鏡手術により8人が死亡していた事件は、この典型である。群馬大では過失を認め、院内調査が行われて謝罪した。しかし、これは現場医師のせいにした「とかげの尻尾切り」であって、事故の真相解明は不十分だった。

 私は、事故の真相究明と責任追及は切り離すべきで、院内調査より第三者機関の調査を優先すべきだと考える。そうしたうえで、あくまで医学的な見地による真相解明を行い、その調査に基づいて患者側がいつでも訴訟を起こせるようにすべきだと考えている。

 そうしないと、事故を起こした医療機関は確実に口をつぐむ。それを防ぐためには、事故調での発言は免責するなどの処置も必要だろう。

 さらに、外科手術が下手、未熟な医者が手術を行って患者を死亡させた、などの場合は、確実に刑事罰を科すことだ。つまり、「下手くそ罪」のようなものをつくらないと、遺族は泣き寝入りするだけになる。運転が下手なプロのドライバーのクルマに乗って事故に遭った場合のことを考えてみてほしい。医者もドライバーも同じなのだ。

 しかし、今回の事故調制度では、当事者である医者側が「事故は予測不可能」と言うだけで、「免罪符」を手に入れている。「前進」と言うより、「後退」である。この制度は来年6月に見直しが行われることになっているが、厚労省も医師会ももっと患者側に立って制度を見直してほしい。
(文=富家孝/医師、イー・ドクター代表取締役)

富家孝/医師、ジャーナリスト

富家孝/医師、ジャーナリスト

医療の表と裏を知り尽くし、医者と患者の間をつなぐ通訳の役目の第一人者。わかりやすい言葉で本音を語る日本でも数少ないジャーナリスト。1972年 東京慈恵会医科大学卒業。専門分野は、医療社会学、生命科学、スポーツ医学。マルチな才能を持ち、多方面で活躍している。
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