たとえば、いわき市の整形外科医療だ。2015年12月4日付けの本連載記事で、東北大学がいわき市の福島労災病院から整形外科医を撤退させたのを契機に、いわき市から年間6000万円の寄附と引き替えに、磐城共立病院に3名の整形外科医を派遣したことを紹介した。残業代などは病院持ちであるため、福島医大には、人件費を差し引いて年間3000万円以上の「自由に使える金」が入ることになる。
現在、福島医大には膨大な税金が投入されている。「行政サービス実施コスト計算書」によれば、14年度に福島医大の運営のために国民が負担した金額は約160億円だ。医学部を有する総合大学である横浜市大(約177億)と遜色ない。福島医大の総資産は724億円で、横浜市大(567億円)を上回る。ところが、総資産回転率は0.381で、自治体病院の平均値0.836(08年度)を大幅に下回る。税理士の上田和朗氏は「資産が大きいのに、それをうまくくいかしきれていない」という。
このような事情を知ると、福島医大への見方も変わってくる。同大学にはすでにあり余るほどの金があり、設立の趣旨を考えれば、自治体から寄付金を取らずとも整形外科医を派遣すべきだ。
浜通りこそ、東日本大震災で直接的に被害を受けた地域であり、その復興が最優先されるべきだ。もし派遣可能な医師がいれば、長年にわたり地域の整形外科医療を支えてきた福島労災病院と、磐城共立病院の両方にスタッフを出せばいい。
幸い、福島医大には大勢の整形外科医がいる。整形外科とは無関係な医療人育成・支援センター、地域連携部、動物実験施設長などの教授には整形外科医局員が名を連ねている。いずれも「菊地氏が引き上げた」(同大学関係者)。彼らが赴任すればいいだろう。福島医大OBで東北地方の民間病院で働く医師は、「東日本大震災以降、福島医大は教授の肩書きを濫発し、収拾がつかなくなっている」という。さらに「教授人事がフェアでない」と感じている人が多い」と付け加える。
福島医大の最大の使命が「東日本大震災からの福島の復興」であると考えれば、理事長のやり方は問題ではないか。
被災地支援は二の次
菊地氏に期待されるのは、リーダーシップだ。目標を定め、実現するように全力をつくすことだ。もちろん、結果に対して責任を負わねばならない。菊地氏は12年3月7日、エムスリーという医師専用ネットメディアのインタビューで以下のように発言している。