この4月から、近所にあるからという理由だけで大病院や大学病院に行くと、長時間待たされたうえに初診料として5000円以上取られ、さらに再診に行くと2500円以上を取られることになった。もちろん紹介状があれば別だが、このことを知らない人は意外と多い。
厚労省は2年ごとに診療報酬の改定を行っており、今年は改定の年に当たる。今回の改訂の大きなポイントは、このように患者負担を大きくすることにより、地域の医療体制を変えていくことだ。厚生労働省の構想は、風邪などで体調を崩したらまず近所の「かかりつけ医」に行き、かかりつけ医が幅広く症状を診察して高度な治療が必要だと判断した場合だけ、大病院に紹介状を書くというもの。こうすることで医療費の増大を抑え、医者不足を補いたいのである。
診療報酬というのは、公的医療保険から医療機関や薬局に支払われる報酬のこと。治療や検査、薬ごとに点数によって価格が決められている。平たくいえば、これが医者側の収入であり、医者側としては少しでも点数を上げてもらいたいのが本音だ。
しかし、その財源は税金と保険料、そして患者負担(1~3割)である。つまり、医者の収入が増えれば、患者の負担が増す。今回の改訂では、診療報酬全体で0.84%減ったが、このうち「本体」と呼ばれる医師や薬剤師の技術料(診察、治療、検査、調剤など)は0.49%増えた。
そうして、前述のとおり大病院を紹介状なしで受診すると5000円以上(歯科の場合は3000円以上)を取られることになった(急患や公費負担医療の対象患者などは例外)。大病院とは、特定機能病院(大学病院のほか国立がん研究センターなどの高度専門病院)と、病床数が500床以上の地域医療支援病院を指す。これらの病院にちょっとしたことでは行くなと、厚労省は言っているのである。
これまでも200床以上の病院では、紹介状なしの初診は概ね5400円を支払う必要があったため、「現状と変わらないではないか」と思われるかもしれない。しかし、今回はこれが義務化され、さらに再診料を2500円(歯科は1500円)と高額にしてしまったので、患者の負担は本当に大きくなる。
診療所や中小病院では初診料は282点、1点につき10円なので2820円。3割負担なら支払う額は846円である。また、再診料は72点=720円である。ここまで差が開けば、患者の足は大病院から遠のくのは間違いないだろう。
かかりつけ医の落とし穴
そこで私たちは「かかりつけ医」を持つことになるが、ここには落とし穴がある。
まず、かかりつけ医といってもどうやって見つけたらいいかわからない人が多いのだ。日本医師会総合政策研究機構の調べによると、「かかりつけ医がいる」と答えた人は全体の53.7%に達している。
さらに、かかりつけ医には、初診料や再診料が低いので患者を頻繁に通わせて稼ごうとする医者も多い。たとえば、3カ月おきでいいものを1カ月おきにしてみたり、薬を2週間分しか出さなかったりして、何度も通わせるようにするのだ。
再診の場合、再診料だけが医者側の収入ではない。病気を外来で管理しているということで「外来管理加算」が加算される。これが520円だから、再診料720円と合わせて実際には1240円かかる。
さらに、特定疾患療養管理料としての「指導管理料」というものがある。これは、結核、がん、糖尿病、高脂血症、高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈、喘息、胃潰瘍、慢性肝炎などの病気の外来管理について適応される加算だ。これは、なんと2250円である。
そこで、高血圧患者ひとりの外来再診を計算すると、
・再診料720円+外来管理加算520円+特定疾患療養管理料としての指導管理料2250円=3490円
となる。これを月1回行えば年約4万円、月2回行えば約8万円になってしまう。
大病院の敷居が高くなり、かかりつけ医に何度も通わされては、患者は踏んだり蹴ったりではなかろうか。
(文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役)